多民族、多言語国家のマレーシアは日本にとっても魅力的なマーケットです。日本にはない高い成長力に期待して、海外進出や会社設立を検討している企業もあるかもしれません。マレーシアの法人税や会社設立の注意点を紹介します。
マレーシアでの会社設立・進出形態
マレーシアは日本にとっても重要な貿易相手国です。2022年第1四半期のGDP成長率は前年同期比5.0%増と安定した経済成長を続けており、個人消費も活発で、これからは世界規模の消費市場としても期待が持てるといわれています。
マレーシアへの進出形態は現地法人の設立のほか、支店や駐在員事務所を設立する方法があります。
現地法人
基本的には現地法人形態での進出が奨励されています。現地法人が選ばれる理由としては、ライセンスの取得や税制上の優遇措置を受けられることが挙げられます。
現地法人の会社形態は、出資者の責任の範囲によって、下記の3つに分類されます。
- 株式有限責任会社
- 保障有限責任会社
- 無限責任会社
株式有限責任会社は、出資者の責任を所有株式の金額を上限とする会社形態で、ここからさらに公開会社と非公開会社の2種類に分けられます。
非公開会社の定義は、株主数が50名以下であること、そして株式の譲渡制限や株式等の一般公募も禁止されています。公開会社とは、非公開会社以外の形態をとる会社のことで、一般的に外資系企業は非公開の株式有限責任会社を選択します。
マレーシアの会社法改正によって、資本金の最低額が1リンギットになりましたが、マレーシア法人の役員や駐在員のEmployment Pass(外国人がマレーシア国内で就労するための在留許可)を取得するためには1リンギットでは足りません。マレーシア資本の比率や業種によって、求められる最低資本金は異なってきます。
さらに小売業、卸売業、飲食店業、サービス業などの業種においては、省庁の承認を受けるために100万リンギット以上の資本金が必要とされています。
支店
支店とは、日本法人のままマレーシアに支店を設立する方法です。駐在員事務所とは異なり、営業活動や商取引をすることができます。さらにマレーシアで現地法人を設立するわけではないので、資本金の準備や取締役の専任も必要ありません。
ただし現地法人と同様に税務申告や会計監査は必要であり、開業時の損失に対しては本社の課税所得と相殺することで節税効果が期待できる反面、支店の税務調査が本社にまで及ぶ可能性もあります。
さらに支店の形態では、外国資本には卸売業や小売業は認められていないなどの外貨規制や、ライセンスの取得ができない業種があります。その制約の多さや税制面での優遇措置が受けられないことから、日本企業が支店形態を選択することは珍しいようです。
駐在員事務所
マレーシアでは駐在員事務所はあくまで過程で、本格的に事業を行うための準備であるという認識がされています。マレーシア進出のための市場調査や情報収集のための形態であることから、駐在員事務所に認められている設置期間は通常2~3年間です。
営業活動が認められていないため、売り上げもありません。そのため法人税やその他の税金を納める必要もありませんが、このままの形態で本格的に進出することはできないので、あくまでも一時的なものです。現地法人の設立に比べ、登記手続きが簡単なのが特徴です。
マレーシアでの会社設立手続きフロー
マレーシアでの会社手続きフローは以下のようになっています。
- システム上の電子申告
- 会社名の使用に関する要件
- 発起人および取締役の選定
- 会社設立登記申請
- 会社設立登録の確認
マレーシアの法人設立申請は、マレーシア企業委員会(CCM)のホームページから電子申告することができます。また会社名は「king」など王族をイメージされるもの、「national」など政府機関のような印象を与えるものは使用できません。会社名登録手続きには社名1つにつき50リンギット、会社設立登録申請手続きには1,000リンギットの手数料が発生します。
設立時の発起人は1名の発起人と、1名のマレーシア居住取締役が必要です。また会社設立後30日以内に会社秘書役を任命する必要があります。会社秘書役はマレーシアに居住する自然人で会社秘書役協会の会員であることが求められます。また一部例外を除いて、マレーシアで監査業務の遂行を認められたものを会計監査人として任命しなければいけません。
会社を設立してからもビジネスライセンスの取得や銀行口座の開設など必要な手続きは多くあります。とくにビジネスライセンスはマレー語での申請作業になるため、現地について熟知したコンサルタントの存在が必須です。事業を行う地域や業種によっても変わるためその都度確認しましょう。
参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「外国企業の会社設立手続き・必要書類」
マレーシアの法人税
マレーシアの税制度は日本の税制度と比較してさまざまな違いがあります。日本では国税と、地方自治体の収入となる地方税がありますが、マレーシアでは税金全てが国税となります。
マレーシアの税制は属地的な性質を持つため、その所得がマレーシア国内を源泉としているものと、国外から送金されてマレーシアで受領されたという場合は原則マレーシアで課税されます。
またマレーシアにおいては、これまでマレーシア国内で発生した国内源泉所得のみが課税対象所得でしたが、税制改正により2022年1月からは免税制度が撤廃され、現在は国外源泉所得のうち国内で受領された所得は課税対象となります。
また2021年までは個人や銀行業や保険業、空海運業以外の会社がマレーシアで外国源泉所得について受領した場合は免税とされていましたが、こちらも課税されることになりました。
居住法人と非居住法人
マレーシアでは納税者が居住法人なのか非居住法人なのかによっても課税の様態が変わります。居住法人とは営業の管理や支配がマレーシア国内でおこなわれている法人。つまり取締役会などの意思決定がマレーシア国内でおこなわれている会社を言います。
居住法人の場合は課税所得の24%が法人所得税です。ただし、条件を満たす小規模会社は優遇措置として50万リンギットまでの金額には17%、50万リンギットを超えると24%が所得税率とし適用されます。
参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「税制」
マレーシアでの納税手続き
マレーシアでの納税手続きは日本での確定申告とはまったく違います。マレーシアでは事業年度開始日から、30日前までに事業年度の年間法人所得税見積額をマレーシア国税庁に提出しなければいけません。さらにその見積額に基づいて基準期間の2か月目から毎月15日までに月次納付します。
事業年度の6か月目、9か月目に法人所得税の見積額変更をすることもできますが、見積額に基づいた年間の累積納付額が確定ベースの最終税額を30%下回った場合はペナルティが課されます。その金額は不足額に対して10%です。
設立当初年度は赤字のケースも想定されますが、見積もりをマイナスやゼロにすることはできません。日本人にとっては馴染のない制度になるため、現地の制度に長けた経理スタッフが必要になるでしょう。
まとめ
マレーシアは海外からの直接投資を歓迎していて、多くの外国企業がマレーシアに進出しています。政府は外国企業への規制緩和を積極的に行うことで、多数の多国籍企業を誘致しています。日本とも直接投資や貿易、技術協力などを通じて親密な関係を築きあげてきました。
治安やビジネス環境から見ても日本企業にとって進出しやすい国といえるでしょう。ASEANのハブとしても今後、有力な海外進出先となることが期待できます。