タイで会社を設立するために必要な手続きや費用は、どのようなものがあるのでしょうか。タイへの進出形態は、「現地法人」「支店」「駐在員事務所」「地域統括事務所・地域統括会社(IHQ)」の主に4つに分けられます。

このうち、現地法人設立に必要な流れを4つのステップに分け、商号の予約・基本定款の登記・設立総会の開催・最終登記をそれぞれ紹介していきます。

またタイで会社を設立する際には、最低資本金、登記費用、ビザ取得費用、オフィス賃料、従業員の給料等が必要となります。海外展開をスムーズに進めるためにも、具体的な金額について確認しておきましょう。

タイでの進出形態

タイで会社を設立するには、どのような形態が選択できるのでしょうか。メリット、デメリットもあわせて解説します。

現地法人

タイ国内で会社設立をする場合、「現地法人」の設立が最も一般的な進出形態です。現地法人設立のメリットは、課税所得の申告納税だけで済むことや意思決定の迅速さ、現地法人の名称でビジネス拡大ができるところです。

デメリットは税務上、欠損金は日本の親会社の課税所得と相殺できないこと。さらに、毎月および毎年1回の経理報告義務があること、タイ人による出資が51 %以上必要である点です。

現地法人は非公開会社と公開会社に分かれ、非公開会社とは多くの日本企業が採用する形態で、株式譲渡・資金調達の制限があります。一方、公開会社は上場を目指す企業が選ぶ形態で、株式譲渡・資金調達の制限はなく、株主は有限責任を負い、かつ株式の公募も可能です。

支店

現地法人同様に販売や営業などができる「支店」は、金融機関の設立は多いですが、外資規制を受けるため、それ以外は設立が難しい形態です。また一時的なプロジェクトで、複数の企業が出資して新会社を立ち上げ事業を行う「ジョイントベンチャー」も、支店のひとつです。

支店の設立条件としては、最低300万バーツをタイに持ち込む必要があります。メリットは、開業当初の赤字を日本の本社の課税所得と相殺できるため節税に役立つこと、現地法人同様に活動できることです。

デメリットは、支店に税務調査が入った場合に日本の本社にも入る可能性があること。さらに、100%外資で設立できるものの、事業の範囲は「登記時に認可を受けた事業」に限られます。また、サービス業は原則参入不可として扱われ、小売・卸売業では資本金が1億バーツ以上必要となるなど、金融業以外で厳しい外資規制を受けるため参入できる業種が限られています。

駐在員事務所

現地での情報収集や本社との連絡がメインの「駐在員事務所」は、営利活動を行えない形態で、設立するには支店同様に最低300万バーツの資本金が必要です。日本の本社のために、タイ国内の物やサービスの購入先を手配したり、新製品・新サービスの宣伝・広報活動を行ったりします。

2017年のタイ政府による規制緩和に伴い、事業ライセンスが不要となり、手間のかかる手続きが簡単になりました。駐在員事務所のメリットは、最も手続きが簡単であること。また、法人所得税の課税対象外となる点、会社設立に伴う大きな投資の前に現地調査ができる点です。

デメリットは、駐在員事務所に法人格はなく、活動範囲が情報収集や情報提供・市場調査に限られることです。

地域統括事務所・地域統括会社(IHQ)

新たな法人形態の「地域統括事務所」・「地域統括会社(IHQ)」は、海外企業がアジア圏でハブになる拠点をタイに置ける制度です。東南アジアへの海外進出を考える企業が、タイでビジネスを展開するひとつの方法と言えます。

メリットは企業全体での節税や為替リスクの軽減で、デメリットは系列会社の商品開発・資産運用など業務のサポートに限られ、営利目的の行為が禁止されていることです。

会社設立(法人設立)手続きの流れ

タイ進出において一般的な形態である「現地法人」を設立する流れを、4つのステップに分けて解説します。

1.商号の予約

新会社の発起人の名前で商務省登録局へ、Webまたは通常の手続きのどちらかで「現地法人の商号」を予約します。似た会社名や省令で禁止された商号はないか、あらかじめ確認しましょう。

問題がない場合、Web手続きは即日、通常手続きは数日で予約ができます。30日以内に発起人が基本定款へ記載して登録しますが、30日以内に登録がなかった場合には再度の予約が必要です。

2.基本定款(MOA)の登記

基本定款に必要事項を記入し、3名以上の発起人が定款へ署名したあとで登記申請をします。この申請にあたっての必要事項は以下の通りです。

  • 会社名商号
  • 登記住所
  • 資本金・発行株式数・1株あたりの額面価格
  • 会社設立の目的
  • 3名以上の発起人の氏名・住所・職業・国籍・署名・それぞれが出資する株式数
  • 株主の負う責任

資本金の額に応じて手数料がかかり、2015年4月1日以降、500万バーツを超える資本金の会社は別途書類の提出が必要です。

3.設立総会の開催

会社登記を終えて株式の引き受けを終えたあと、発起人が会社設立総会を開催します。株主総会や取締役会などの会社の付属定款を決めて、取締役・監査人を選びます。さらに、発起人の設立準備に関する承認を行うほか、株式の対価を支払います。

タイでは会社の規模に関わらず、監査人による監査義務が発生します。どの会社にも監査人の選任を義務づけており、外国人ではなくタイ人の公認会計士であることが条件となっているため、専任の際には注意が必要です。

4.会社の登記(最終登記)

設立総会開催後、取締役は3か月以内に行政手数料を納めて最終登記を行うと、設立手続きは完了です。

代表者だった発起人はこのあと事業を取締役へ委ね、取締役は発起人と株式の引受人へ、株式に対する最低25 %の支払いを要求します。支払いが完了次第、登記申請を行います。登記料は5,000バーツです。

会社設立(法人設立)・登記費用

タイで会社設立するにあたり、必要な5つの費用について紹介します。

最低資本金

外国企業の最低資本金は、200万バーツ以上です。外国人事業法の規則業種に基づく特別認可を取らなければならない業種の場合は、300万バーツ以上となります。

また、タイで外国人が労働する場合には、労働許可が必要となり、外国人1人あたり200万バーツ以上の払込資本金がかかります。なお、タイ企業の場合には、最低資本金の決まりはありません。

登記費用

登記局へ支払う登記費用は、以前は資本金額に応じて異なっていましたが、現在は一律5,000バーツです。

ビザ取得費用

タイで日本人が働くにはいわゆる就労ビザ、正式名称「ノンイミグラントビザ・カテゴリーB」の取得が必要です。公用・私用で90日間滞在できるビザで、入国は1回のみのシングル、複数回の入国が可能なマルチプルがあります。

シングルタイプで申請料は9,000円ほどかかり、労働許可証の取得もあわせると100,000円程度のコストがかかります。加えて、日本人がタイでビザの延長資格を得るためには、日本人1人につき、最低4名のタイ人の雇用が必要となります。

オフィス賃貸料

バンコクでオフィスを借りる場合、3年契約が一般的で、敷金として賃料と共益費の合計額の「約3か月分」を支払うケースが多いです。

バンコクのオフィス需要は高まりつつあり、2023年第1四半期の募集賃料の相場は、1平方メートルあたり808バーツ/月。一等地とされる人気エリアの賃料はとくに高騰しているため、タイへ進出する企業はサービスオフィスを利用することも多いようです。

従業員の給料

タイ国家統計局によると、2021年のタイの全国平均月収は約27,000バーツで、年収は約328,000バーツです。新卒で働いた場合の初任給は、約10,000〜50,000バーツ、日本語が話せるタイ人になると、25,000~30,000バーツ程度が相場とされています。

また、日本人がタイで就労ビザを取得するには、条件として月間固定給50,000バーツ以上を得る必要があります。そのため日本人がタイ国内で働き続けるためには、初任給の相場の最高額である50,000バーツが最低月額給与として必要となります。

まとめ

タイで会社を設立する場合、展開したいビジネスプランにあわせて、現地法人、支店、駐在員事務所、地域統括事務所・地域統括会社(IHQ)等から適した形態を選びましょう。設立に必要な費用である登記料、ビザ取得費用、オフィス賃料や敷金、従業員の給料はどれかが不足しても会社設立はできないため、十分な準備をして臨んでください。

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