日本にとって台湾は親しみ深く、文化も日本と通じるところが多い国です。また経済成長率も安定した推移を見せています。台湾経済のビジネス環境や今後の展望についてまとめました。

台湾の成長率の動きと経済動向

2018年以降世界的に景気は減速局面に入っています。米中貿易摩擦に端を発した世界の貿易不況は世界経済の心理的な重石です。その中にあって台湾の行政院主計総処は11月に2019年通年の実質経済成長率が前年比2.64%になる見通しを示しました。

これは8月時点の予想から0.18ポイント上方修正したものです。上方に修正した原因は民間投資の上振れです。民間投資が前年同期比7.61%増と従来予想から2.6ポイント引き上げています。

米中貿易摩擦を受けて工場などを中国から台湾へとシフトする動きがあり、また対米輸出も増加しています。生産能力の増強に向けた設備投資が成長率を押し上げた結果が安定した経済成長につながりました。台湾の行政院主計総処も台湾企業が中国からの生産回帰が主因であるとコメントしています。

台湾は世界IT(情報技術)大手の機器生産を担う企業が集積した国です。台湾の精密機械企業もアップル製品の製造で大きく成長を遂げました。台湾では中国生産を主体としていたものの、2018年後半からは台湾などに生産地を移管する動きが活発になっています。中国からの生産回帰に向けた台湾当局への投資申請は2019年の初めから7月26日までの間に累計4973億台湾ドル(約1兆7300億円)となり、これが経済を押し上げてきました。また生産回帰の流れから輸出も予想を上回る成長を見せています。

ただし、台湾の好調がいつまで継続できるかは主要貿易相手国である中国の動向が無視できません。中国政府は中国から台湾への個人の観光旅行を8月1日付で当面禁止すると発表しました。中国大陸からの個人旅行客は18年に百万人規模に達しているため、観光面での影響が不安視されています。

中国の「一つの中国」と台湾政権動向

中国は2019年8月、中国大陸から台湾への個人旅行を当面停止すると発表しました。団体旅行や出張は引き続き認められるものの、台湾経済への影響は免れません。このことに対して中国側は中台関係の現状が理由だとしています。

中国では「一つの中国」をキーワードに政策をおこなってきました。「一つの中国」とは中国大陸と台湾、マカオ、香港は不可分の中華民族の統一国家であるという主張です。中国は台湾が独立に向かうのを阻止する圧力として旅行禁止に踏み切ったとみられています。

台湾では対中融和路線の国民党・馬英九氏が中国大陸からの観光客受け入れを段階的にスタートしました。その結果、2014、15年の中国からの観光客は300万人を上回り、全観光客の4割超を占めました。

しかし、「一つの中国」原則を認めない蔡政権が発足した16年以降は中国からの観光客は減少傾向にありました。蔡英文政権は、安全保障面で米国に接近するなど独立に向かって動いています。

2020年1月には台湾総統選が実施されます。最大野党の国民党から出馬する韓国瑜・高雄市長は中国との経済関係を強める政策を掲げています。中国は蔡政権に圧力をかける一方で親中的な政権が生まれるような候補者を側面的に支援しています。

新南向政策と台湾の動向

新南向政策と台湾の動向
独立路線を目指す蔡政権の目玉ともいえる政策が新南向政策です。これは。台湾企業の中国大陸への一極集中投資を分散させる意味で南方の東南アジアへの投資を奨励する政策です。そもそもは1990年代に定めた政策でしたが、アジア通貨危機などの影響もあり停滞してしまいました。またアジアが注目されるようになったことで再び掲げたのが新南向政策です。

新南向政策の対象となる地域はASEAN10カ国、南アジア6カ国、オーストラリア、ニュージーランドの計18カ国です。新南向政策は中国との競争を目指したものではありません。お互いが持つ優位性で恩恵を与えあって発展を促進するものです。台湾は医療や情報技術、防災など多くの強みがあります。また産業人材の育成に関するプロジェクトも推進して、新南向政策対象国や東南アジアに進出する台湾企業のために人材供給をおこなうとしています。

台湾の対外経済貿易戦略の中核となる新南向政策はアジアの台湾としての地位を確立できるか否かの重要な分岐点に立っています。日本企業も中国の反日感情の高まりや賃金上昇を危惧して中国を回避、台湾など近隣他国に投資する動きが出てきています。日本と台湾の企業連携の可能性は新南向政策によってさらに広がると期待できるでしょう。

まとめ

台湾は中国にわたった製造業を地元に引き戻すなど、生産回帰路線で産業振興を目指しています。中国から投資を戻す企業には当局が工場用地を紹介して資金面でのサポートをおこなう、外国人労働者を通常より多く雇用できるといった優遇策を運用し始めました。現在アジアの中でも経済が安定して推移しているのは、台湾やベトナムといった米中貿易摩擦によって漁夫の利を得ている国です。台湾は直近、生産移管が下支えとなることで堅調に経済成長が推移しています。しかし、今後世界経済が力強さを取り戻せなければ、輸出が強い台湾にとってはつらい環境になるでしょう。政策面、経済面の動きに注目が集まります。

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