観光先としても日本人に人気の台湾。国土と人口は大きくないため、マーケットとして検討していない企業もあるかもしれません。台湾経済の特徴や概況をまとめました。
東南アジア戦略のカギとなる台湾
日本は少子高齢化が進み、日本企業は新たなマーケットを探しています。とくに今後成長が期待できるマーケットと言われているのが東南アジアでしょう。東南アジアの新興諸国は人口も若く、生産国、消費市場としても有望視されています
またアジアに進出するというと、以前はまず中国の名前が挙がっていました。しかし、いまだに中国が有望な投資先ではあるものの、中国に投資が集中してしまう一極集中リスクも認識されています。
台湾の基礎情報
台湾は、東アジアに位置する島国であり、面積は約36,000平方キロメートル、人口は約2,326万人。面積は日本の九州よりもやや小さい程度ですが、人口密度は日本と比べると約2倍の数字です。首都機能があるのは台北市で、政治・経済・文化の中心地となっています。台湾は親日的で日本との貿易も盛んな国。日本にも地理的に近いためアジアへの足掛かりとしても選ばれています。台湾の中心である台北は東京から3時間程度で着くため、出張などの行き来がしやすいこともメリットです。
国自体がコンパクトであるため、交通インフラが整っています。台北の空港からであれば、台北市内に10分~20分程度でアクセス可能。また都市内には、地下鉄が張りめぐらされていて市民の足となっています。タクシーの初乗り運賃も70台湾元、およそ310円ほどです。台湾はタクシー文化でタクシーが日常的に使われています。交通アクセスが発達していて、地方都市や東南アジア諸国へも移動しやすいでしょう。
独自の文化や歴史を持ち、多様な産業が存在しているのも台湾の特徴です。とくに、半導体産業やIT産業を中心に、世界最大の半導体メーカーである「TSMC(台湾積体電路製造)」のような有名な企業も多く、高い技術力と生産性により世界中の需要に応えています。また台湾政府は、台湾経済を支える中小企業や新しい産業の育成、環境問題やエネルギー問題などに取り組んでおり、世界経済に大きな貢献をすることが期待されています。
台湾経済の歩みと概況
台湾は日本であった時期も長く、経済、文化面で日本と似た部分も多くあります。
台湾の高度成長
台湾は戦後、資源の枯渇や資本不足による経済危機に苦しみましたが、世界でも有数の経済成長を遂げています。アメリカによる資金援助もあり、経済が安定化すると電子、紡織、プラスチック等の軽工業で高成長が始まりました。
1990年代には国民の生活も豊かになり、高度な工業化への道を歩み始めます。石油化学・繊維・金属加工などの生産国となるとともに、半導体や情報通信技術で世界での存在感を強めていきました。国際通貨基金(IMF)の定める「経済先進国」(Advanced Economies)に分類されるなど経済大国としての地位を確立したのもこの時期です。
アジア通貨危機の影響
アジア通貨危機後、台湾も経済環境の悪化が避けられませんでした。1997年の経済成長率は6.6%の高い水準だったものの、1998年の経済成長率は4.6%になりました。また2000年前後には台湾の不良債権問題が深刻化してマイナス成長に陥っています。
台湾は国土も小さく、産業空洞化によって銀行が企業に融資したくても融資できないという環境がありました。すると余剰資金が大きくなり、さらに金融自由化によって外国銀行との競争が迫られるようになります。結果として条件を緩和した消費者金融業を積極的に行うことで不良債権問題、金融危機につながりました。
台湾と中国の関係と今後
中国と台湾の経済的な関係は非常に複雑であり、政治的な緊張関係が経済にも影響を与えています。
台湾と中国の政治的対立
日中戦争後の中国大陸では、1912年に設立された「中華民国」の国民党と、中国共産党の間で内戦が続いていました。1949年に共産党が勝利し、毛沢東が「中華人民共和国」の建国を宣言します。内戦に敗れた蒋介石と国民党は台湾に移り、現在の台湾政府を樹立しました。そのため中国は、台湾は自国から分離した省であり、中国の一部だとする「一つの中国」を主張し、台湾は「独立国家」としての存在を主張しています。
このようなことから、両国間では常に対立が続いており、政治的な問題が経済面にも影響を与えています。具体的には、中国は台湾が国際社会で自立的な活動をすることに反発し、台湾に対する圧力を強めています。それに対し台湾政府は、中国企業による買収や投資が、台湾の国家安全保障に影響を与える可能性があると考えており、防止するための法律や規制を導入しています。
「大陸地区人民来台投資許可弁法」を改正し、中国企業による台湾企業の買収や投資について、より厳格な審査が行われるようになりました。また、投資可能な業種も一部の製造業やサービス業などに制限されています。
台湾の輸出の4割は中国
一方で、中国と台湾の経済的な関係は、台湾にとって非常に重要なものです。台湾の輸出品の約4分の1が中国向けに出荷されており、台湾の経済にとって中国は最大の貿易相手国となっています。とくに、台湾の電子機器や半導体などの製造業は、中国市場に強く依存しており、中国経済の発展と密接な関係があります。
また、中国企業も台湾企業との合弁事業や投資を通じて台湾経済に貢献しているため、台湾と中国は経済面にもお互いに無視することのできない存在です。そのような事情から、台湾政府は中国との経済関係を維持しながら、台湾の経済成長を維持するためにさまざまな施策を講じています。
たとえば、台湾政府は、中国との経済的な依存度を下げるために、東南アジアなど他の市場にも積極的に進出しています。さらに、台湾は自国の産業を振興するために、研究開発や製造業などに対する投資を進めており、自立的な経済発展を目指しています。
蔡英文総統が目指す経済政策の方向性
台湾では2016年から馬英九(ば えいきゅう)総統に代わり、蔡英文(さい えいぶん)氏が台湾総統となり、経済政策についても変わってきています。蔡英文総統が目指すのは経済構造の転換、教育、エネルギー、食の安全、環境などといった諸問題、年金などの社会福祉への対応です。
また新しい政策として経済発展が著しいASEAN10カ国、南アジア6カ国、オーストラリアとニュージーランド、計18カ国との関係を強化し、台湾の経済発展を目指す「新南向政策」を掲げました。台湾は中国との関係が深く主要な貿易相手です。しかし、新南向政策によってより多くの国と連携が期待できるでしょう。
蔡英文総統は2020年の総統選挙でも勝利し、再選を果たしています。しかし、2022年には、総統選の前哨戦と位置付けられる「統一地方選挙」の大敗の責任を取るかたちで、蔡英文総統は与党のトップである「民進党主席」を辞任しました。台湾の次の総統選挙は2024年に行われます。現在2期目の蔡英文総統は出馬ができません。
政権交代が起こった場合、政権交代前後で経済政策の傾向が大きく変わることがあります。台湾有事のリスクの高まりも懸念される台湾の総統選挙にも注視しておきましょう。
台湾の新しい成長戦略
台湾は2016年から新しい成長戦略を武器に投資を強化しています。五加二産業政策やインフラ政策、歓迎台商回台投資行動方案について、それぞれ紹介します。
五加二産業政策
五加二産業政策とは「アジアのシリコンバレー」になるという目標、さらにバイオ医療、グリーンエネルギー、スマート機械、国防宇宙産業の五大イノベーション産業を推進するもの。加えて新農業と循環型経済もプラスして、「五加二(5+2)」産業政策です。
台湾は今までICT 製品の OEM と輸出を柱とした経済発展モデルで成長力を保ってきました。しかし、欧米の再工業化や中国のサプライチェーンの台頭によって競争力の限界が指摘されるようになってきています。そこで新しい成長産業育成のためにイノベーション主導型の経済成長モデルを作り、台湾産業の優位性とニッチ性を発揮できるような環境づくりに取り組んでいます。
将来を見据えたインフラ計画
また2017年9月から続く「将来を見据えたインフラ計画(前瞻基礎建設計画)」は5年を経過しました。これは2017年~2025年までの8年間で、台湾の経済発展を目指したインフラ投資を進める政策です。台湾は世界的な競争力指標において周辺のアジアの国・地域に後れを取っており、その背景に2008年から公共事業費が年々縮小されていることがあります。
インフラ計画は五加二産業政策のグリーンエネルギー技術革新と一体となって進められ、軌道インフラ、水環境インフラ、都市インフラなどが主軸となっています。
歓迎台商回台投資行動方案
台湾聖具は2019年1月から、米中貿易摩擦をきっかけとして、中国へ進出している特定の業種に向けて台湾への回帰を促す優遇政策を始めました。中国で事業を行う台湾企業の台湾への国内投資を促すアクションプログラムで、条件を満たすことで、台湾域内で土地や水・電力などのインフラから、労働力確保の支援など優遇措置を受けられます。
2019年7月には、中国での投資実績のない大企業や中小企業にも対象を拡大し、台湾における投資の増加を目指しました。「歓迎台商回台(台湾回帰)投資行動方案」に加えて、大企業向けの政策を「根留台湾企業加速投資行動方案」、中小企業向けの政策を「中小企業加速投資行動方案」とし、3つの方案を合わせ「投資台湾三大方案」と呼ばれています。
当初、「台湾投資三大方案」は2021年末を期限としていたものの、国内企業からのニーズが高いことから、2024年12月31日まで3年延長されました。現在の延長期間では、それまで対象分野としてきたアジア・シリコンバレー関連(IoT)やスマート機械、グリーンエネルギー、バイオ医療、新農業、国防、循環経済(新材料)という条件に加え、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする目標に合わせ、申請企業には脱酸素の取り組みが追加されました。
まとめ
台湾はハイテク産業を中心とした多様な産業構造を持ち、国際貿易の自由化にも積極的です。さらに台湾政府は新しい成長戦略を掲げ、投資を強化しています。ただし、中国との政治的な緊張関係が経済面にも影響を与えることがあるでしょう。
中国は賃金上昇やカントリーリスクの高まりが懸念されているため、日本企業の中には中国進出のために言語や文化で通じやすい台湾企業と提携する動きもあります。日本と台湾の企業連携の可能性は今後も高まることが予想されるでしょう。