フィリピンはアジアの中でも近年成長が著しい国です。親日家が多いことでも海外進出先として有望視されています。フィリピンにおける法人や会社設立のための制度を紹介します。

フィリピンの法人税

フィリピンでは2021年4月11日に、税制改革の第2弾である企業復興税優遇法(CREATE)が発効されました。CREATE法は、主に法人所得税の減税を中心に据え、新型コロナウイルスによる企業の業績回復を主眼に置いたものです。

フィリピンの法人税は、対象法人が「国内法人」「居住外国法人」「非居住外国法人」のどれに該当するかによって、適用される法人税の課税所得が違います。それぞれの詳細を認してみましょう。

国内法人

フィリピン法の下で設立された国内法人はすべての課税所得に対して25%の税率で課税されます。ただし課税所得が500万ペソ以下、かつ総資産が1億ペソ以下の場合には、20%の税率で課税されます。総資産とは、事務所・工場および設備が所在する土地を除いたものです。

居住外国法人

フィリピン国内で事業従事する支店などの居住外国法人については、フィリピン源泉の課税所得に対してのみ、国内法人と同じ税率で課税となります。

非居住外国法人

フィリピン国内での事業に従事しない非居住外国法人は控除もなく、フィリピン源泉の総所得に対して25%の税率で課税されます。

最低法人所得税

フィリピンの法人税制度が持つ特徴の1つが最低法人所得税です。これは課税所得が多くても少なくても最低でも売上総利益に2%を乗じて計算される「最低法人所得税 Minimum Corporate Income Tax(MCIT)」の納税が求められる制度です。つまり、控除項目や事業経費が多く課税所得が少なかった場合であっても、最低で売上総利益の2%を納税することになります。なお、2020年7月1日から2023年6月30日までの税率CREATE法により1%とされていたため、2%となったのは2023年7月以降です。

最低法人所得税は、内国法人及び外国居住法人が対象で、いわゆる外形標準税で事業開始から4期目以降の課税年度から適用となります。ただし最低法人所得税として支払った金額は、支払の翌年度以降3年間に渡って通常の法人所得税から控除することが可能です。なお、BOIやPEZAの優遇措置を受けている会社は対象外です。

法人税の納付について

法人税の納付時期

フィリピンの法人税の課税年度は、暦年(カレンダー年)と会計年度の両方に対応しています。一般的に企業の課税年度は、暦年(1月1日から12月31日)を採用されており、多くの企業がこの暦年を基準にして法人税の申告や納税を行っています。

会計年度は企業が経理を行うための期間であり、企業によっては企業の会計年度と課税年度が異なることがあります。そのため、一部の企業は会計年度を基準にして法人税の申告や納税を行います。

申告納付期限

申告・納付期限は、課税年度終了後の4か月目の15日となります。つまり、課税年度が暦年(1月1日から12月31日)の場合、法人税の申告・納付期限は翌年の4月15日です。

なお、法人税の申告・納付期限の遅延により利子税が課される場合がありますが、企業は申告・納付期限の延長を承認してもらうこともできます。延長を申請する場合は、税務当局に対して正当な理由を提出する必要がありますが、承認されれば申告・納付期限が延長され、利子税の課税を回避することができます。

遅延による利子税の発生を防ぐためにも、適切なタイミングで申告・納付を行うよう心掛けましょう。申告・納付期限に関して延長を必要とする場合は、税務専門家のアドバイスを仰ぎながら、早めに手続きを進めることがスムーズな対応につながります。

中間納付

フィリピンの法人税においては、四半期末から60日以内に中間申告・納付を行う必要があります。つまり、課税年度が暦年(1月1日から12月31日)の場合、各四半期の終了日から60日以内に中間申告・納付を行わなければなりません。

四半期の終了日は、3月31日、6月30日、9月30日、12月31日となります。これらの日付から60日以内に、それぞれの四半期の中間申告・納付を行います。中間申告・納付は、年間の税務計算の中で四半期ごとの結果を報告するものであり、年末の最終申告と納付の前にも行われます。

適切なタイミングで中間申告・納付を行うことにより、企業の税務計画を立てることができ、年末の最終申告時の誤差を最小限に抑えることにつながります。税務上のリスクを抑えるためにも、専門家のアドバイスを仰ぎながら、適切な手続きを遵守しましょう。

時効

フィリピンの法人税における時効は、原則として3年です。法人税の申告漏れや納税漏れによる追徴課税などの請求は、原則として納税年度から3年を経過すると、時効により請求ができなくなります。

ただし、租税回避が認められる場合は、時効が最長で10年まで延長されることがあります。租税回避とは、企業が意図的に税務上の義務を逃れることを指します。税務当局が企業の行為を租税回避と認定した場合、時効が3年よりも長くなることがあるので注意してください。

参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「フィリピンの税制」

フィリピンでの会社設立(法人設立)

フィリピンへの進出を検討する場合は、「現地法人」「支店」「駐在員事務所」の主に3つの事業形態から選ぶことになります。日本企業が進出する際には、現地法人を選択するのが一般的です。なぜ現地法人が選ばれているのか、それぞれのメリットについて解説します。

現地法人

フィリピンで設立した現地法人は本国の親会社と別の法人格を持ち、フィリピン会社法に則って経営されます。もともとフィリピンの会社法では、取締役の人数は5名以上、15名以下と定められていましたが、2019年の会社法改正により最低人数とフィリピンへの居住者要件が撤廃され、1名の株主でも法人を設立することが出来るようになりました

なお法人が株主の場合には、取締役が最低1株の株式を保有する義務があるので、株主は2名以上となります。また新会社法では財務役のフィリピンへの居住が明記されており、取締役はフィリピンへ居住する必要はないものの、1名以上の選任が義務づけられている「財務役」はフィリピン居住者でなくてはなりません。

会社法の改正により、資本金の要件も撤廃されました。ただし、外国資本が40%を超える国内市場向けの会社に関しては、最低払込資本要件は20万ドルと定められています。先端技術を有する、もしくは50人以上を直接雇用する場合の最低払込資本要件は10万ドルに軽減されます。

株式会社と非株式会社

フィリピンの会社法では、現地法人は「株式会社」と「非株式会社」に大きく分類されます。さらに株式会社には、「公開会社」と「非公開会社」があります。

「株式会社」は日本と同様に、株式を発行し、保有株式に応じて会社の利益を配当金として株主へ支払います。「非株式会社」は、慈善・教育・文化等の公益性の強い目的で組織された会社で、出資者に対して株式の発行はありません。日本企業が法人を設立する際には、株式会社を選択することがほとんどです

株式会社の「公開会社」と「非公開会社」の違いは、株式の所有が少人数に限定されることです。非公開会社は、下記の制限が定款で定められた会社とされています。これに該当しない株式会社を公開会社といいます。非公開会社には実施できない事業が定められているため、非公開会社を選択する場合には確認が必要です。

定款に含まれる内容

  • 自己株式を除き、株主数が20名以内と定められていること
  • すべての株式譲渡に際し、譲渡制限が適用されること
  • いずれの証券取引所においても、上場や公募ができないこと

支店

フィリピンでは支店の開設も可能です。支店であれば国外の本社の一部として位置づけることが可能なうえ、現地法人(子会社)設立に比べて設立要件等が簡易です。また駐在員事務所とは異なり、フィリピンから所得を稼得することが可能です。

ただし、外資系企業や外国人投資家はネガティブリストに記載のある分野は行えず、支店の形態を選択できるのは一部の業種に限られます

最低資本金は現地法人と同様に、先端技術を使用せずかつ50人以上の直接雇用をしない場合には、20万ドル相当の運転資金が必要です。先端技術を使用する、または50人以上の直接雇用がある場合には10万ドル相当です。また本店に送金する場合は、送金額に対して15%の「支店利益送金税」が課せられます。

駐在員事務所

駐在員事務所も支店同様に本社の一部と位置付けられます。駐在員事務所は売買契約を締結するような所得を稼得する活動は行わず、市場調査や情報収集など限られた活動のみに従事します

フィリピンで駐在員事務所を開設する場合は、証券取引委員会への登録前に、本社から最低3万ドルの送金が必要です。所得が発生しないため、その後の必要経費は随時本社から送金してもらい運営を行います。

ただし駐在員事務所であっても財務報告や税務申告は現地法人、支店同等の手続きが求められます。

証券取引委員会(SEC)への登録

フィリピンではSECが法人の管理・監督を行っています。現地法人、支店、駐在員事務所、どの設立形態を選択しても証券取引委員会(SEC)への申請・登録が必要です。申請時には、社名確認書や定款・送金証明書などを提出し、約1~2週間で登録証明書が発行されます。

その他の優遇措置を受けられる進出形態

フィリピンでは上記のほかにも地域統括本部(RHQ)や地域経営統括本部(ROHQ)といった形で進出することができます。地域統括倉庫の設立も可能なので事業に適した形態を選択しましょう。ただし、それぞれ一定の条件や手続きがあるため、フィリピンでの進出を考える企業は、詳細な要件を理解し、公式機関の指針に従って計画を進めるようにしてください。

地域統括本部(RHQ)

地域統括本部(Regional Headquarters:RHQ)は、フィリピン国内における外国企業の統括本部としての機能を持ち、特定の地域における事業活動の統括・連絡・調整を行います。一定の要件を満たす外国企業に対して許可される制度であり、その主な目的は以下のようなものです。

  • 管理・統制:外国企業の地域内における事業活動や子会社の管理・統制
  • 連結業務:子会社間の連結業務を行い、経営戦略の実施を補完
  • 技術支援:地域内の子会社に対して技術的なサポートやアドバイスの提供

RHQはフィリピン国内で営業活動を行うことはありません。そのため、フィリピン国内での収益を上げることはできず、商取引も行いません。また、RHQには特定のサービスに限られた範囲のみが許可されており、商業的な事業活動は対象外となります。

地域経営統括本部(ROHQ)

地域経営統括本部(Regional Operating Headquarters:ROHQ)は、フィリピン国内における外国企業の経営統括本部としての機能を持ち、特定の地域における事業活動の管理・運営を行います。ROHQも一定の要件を満たす外国企業に対して許可される制度であり、主な目的は以下のようなものです。

  • 管理・運営:外国企業の地域内における事業活動の管理・運営
  • 連結業務:地域内の子会社との連結業務を行い、経営の統制や戦略の実施をサポート
  • サービス提供:地域内の子会社に対して一定のサービス(例:人事・経理・財務・情報技術など)を提供

ROHQはサービス提供に特化しており、商業的な事業活動は地域経営統括本部の対象外です。ROHQ制度は、経営統制やバックオフィス業務の統合を図りたい外国企業にとって、フィリピン進出の一つの選択肢となるでしょう。

RHQ(地域統括本部)は子会社の統制や管理、技術支援に特化、ROHQ(地域事業統括本部)はバックオフィス業務や連結業務・一定のサービス提供を行うといった違いがあります。フィリピンでの進出を考える企業は、企業の目的や進出戦略によってどちらを選択するのか、慎重に検討してください。

地域統括倉庫(Regional Warehouses)

地域統括倉庫は、フィリピン国内における外国企業の商品や製品の保管・保管・物流を担当する施設や拠点のことを指します。外国企業がフィリピン市場に進出し、製品の保管や配送、流通を効率的に行うために利用される場所です。

設立することでフィリピン市場における物流・流通の効率を向上させ、顧客に対して迅速な対応を行うことができるようになります。地域統括倉庫は、主に以下のような役割を果たします。

  • 商品保管:外国企業の製品や商品を一時的に保管する場所
  • 流通・配送:フィリピン国内での流通や配送を効率的に行うための拠点
  • 在庫管理:在庫管理システムを用いて、適切な在庫レベルを維持し、生産と需要のバランスを調整
  • 物流サポート:物流パートナーと連携し、スムーズな流通を確保

参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「外国企業の会社設立手続き・必要書類」
参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「外資に関する奨励-各種優遇措置」

フィリピンの外貨規制

外資規制とは、外国企業または外国人が行う国内企業への投資を制限する規制です。規制の内容はそれぞれの国で異なりますので、海外進出を考えている企業は、現地政府の外資規制についておさえておく必要があります。

なぜ外貨規制を行うのか

外資規制は、自国の重要な資源や資産・財産を、他国に奪われないようにするのが目的です。原則、先進国では対外取引が自由に行われていますが、何の規制もないと他国の資源や資産もお金さえあれば買い占めることが出来てしまうのです。

規制内容は、石油や鉱石だけではなく、マスメディアやIT技術などさまざまですが、最小限の範囲で自国の安全保障と経済を守るための内容になっています。

フィリピンの外資規制

フィリピンではネガティブリストに記載された業種は、外国企業の投資を禁止、もしくは制限されています。ですが、2022年の外資規制関連法の改正に伴い、外資の参入規制が大幅に緩和されました。

外資の参入を期待する分野においては外資の出資比率の上限が撤廃され、さらに公益事業が何かを明確にしたことで外資系企業が参入しやすくなりました。ネガティブリストにはAとBの2種類があり、内容は定期的に更新されるため、必ずチェックするようにしましょう。

参考:日本貿易振興機構(JETRO)「フィリピン 規制業種・禁止業種『第11次ネガティブリスト」

実施されている優遇措置

フィリピンで実施されている優遇措置

フィリピンは外国からの投資を積極的に受け入れている国です。そのため優遇制度も手厚く登録や申請をすることで、優遇措置を受けられる場合があります。

BOI(投資委員会)

BOI(Board of Investments)の優遇措置は以下のものです。

  • 法人所得税の免税(新設パイオニア企業6年間、新設非パイオニア企業4年間)
  • 原材料・半製品の購入にかかる税金の税額控除
  • 輸入材料やスペア製品にかかる輸入関税の免除
  • 輸出税、関税賦課金の免除
  • 繁殖用家畜および遺伝子学的材料の免税輸入(登録後10年間)
  • 労務費の50%追加控除(登録後5年間)

法人税の免税期間が終了すると、通常通り25%での課税となります。また優遇措置は会社単位ではなく、プロジェクト単位なので該当するプロジェクトに関連しない活動から生じた所得は対象とならないので注意しましょう。

PEZA(経済特区)

PEZA(Philippine Economic Zone Authority)と呼ばれる経済特区も設けられています。経済特区に入居してPEZAに申請認可を得ると優遇措置を受けることが可能になります。さらにPEZA登録企業は、固定資産税を除くすべての国税や地方税が免除されます。つまり、法人所得税や付加価値税、関税などの税金はすべて免除です。このタックスホリデー終了後は特別税を支払うことになります。

日系企業の多くが、法人所得税の一定期間免税や特別税率の適用を受けています。ただし、これらの優遇措置は事業の内容や年によって内容が変わります。必ず最新のものを確認するようにしてください。

まとめ

フィリピンは将来ASEANの大国として世界的に台頭することも予想されている国です。外資誘致にも積極的で英語も通じやすいフィリピンは日本企業にとっても魅力的な市場といえるでしょう。多くの大企業がフィリピンに進出しています。フィリピンの法人税や会社設立の制度は独特な面もあるので、海外進出の際はコンサルタントや専門家の協力を仰ぐようにおすすめします。

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