ベトナムは、人口の増加が続いていて若い人材が豊富、利便性の高い場所に位置しているなどのメリットから、海外進出先として多くの企業が選択している国です。

ビジネス展開を成功させるには、ベトナムの人口から政治・文化・主要産業などの基礎的な知識はもちろん、今後の経済成長、市場の発展予測なども検討する必要があります。ベトナムへのビジネス展開の際に役立つ、ベトナムの基礎情報やビジネス展開のメリット、注意点をまとめました。

ベトナムの基礎情報

ベトナムへのビジネス展開に備えて、まずはベトナムの基礎的な情報を把握する必要があります。ベトナムの人口や宗教、政府、主要産業などの情報を押さえて効果的な進出に活かしましょう。

ベトナムの面積・人口

ベトナムは国土面積が約33万㎢、日本から九州の面積を差し引いた程度の広さの国です。人口は2022年の越統計総局によると9,946万人ですが、2023年9月時点では1億人を超えています。ベトナムの平均年齢は31歳と若年層の人口が多く、若い労働力が豊富であることが特徴です。

ベトナムの首都は北部の「ハノイ」、最も規模の大きな都市が南部にある商業都市の「ホーチミン」です。2019年のデータでは人口の65%が農村部に集まっていたことから、人口比率は都市部よりも農村部の方が高い国でもあります。

国土が南北に長いため、北部と南部の気候は同じではありません。ベトナムは少数民族が集まって構成されている多民族国家で、約86%がキン族、残りの14%は50以上の少数民族です。

キン族が使用するベトナム語が公用語になっています。宗教は全人口の約86%が無宗教で、一番多いのがキリスト教徒の約7%、次に多いのが仏教徒の約5%、その他の宗教の信者は合計しても全体の3%程度です。

社会主義国

ベトナムの正式国号は「ベトナム社会主義共和国」です。ベトナム共産党がベトナム政府の政権を握っている社会主義共和国で、政治的に安定しているところも進出に適しているといえます。

社会主義共和国ではあるものの、ベトナムでは1986年に制定された「ドイモイ政策」によって、一定まで個人の財産が認められ、民間企業が起業できる自由主義経済が取り入れられています。

もともと豊富な労働力と安価な人件費という点から、日系企業が海外拠点を作る際に中国が選ばれてきました。しかし、近年の経済成長による人件費や物価の上昇によって、国へと検討が始まり、有力な候補地として挙がったのが「ベトナム」です。

人件費が安く真面目で質の高い労働力が得られるメリットや立地の良さなどから、中国以外の進出先として、今後もベトナムが選ばれる機会が増えていくでしょう。

主要産業

ベトナムの主要産業は、サービス業や製造業、農業です。ベトナムのGDPを占めている産業の割合は、サービス業が41.33%、鉱工業・建築業が38.26%、農林水産業が11.88%とされています。

水資源が豊富で温暖な気候から、ベトナムは農業大国としても知られていますが、近年では農林水産業の比率が減少傾向にあり、反対にサービス業や鉱業・建設業などの増加がみられました。ベトナムの農林水産業では、南北に及ぶ国土によって各地の気候に応じたさまざまな農作物の収穫が可能です。

主要な農作物は米・さとうきび・キャッサバ・コーヒーなどで、コーヒーの生産は、ブラジルに次ぐ世界2位の生産量を誇ります。水産物では、えび、白身魚のパンガシウスなどの輸出が多いです。

ベトナムの鉱工業・建築業は、現在ではスマートフォン・半導体・バイクの製造など幅広い分野にわたり、海外企業の進出による経済成長が今後も期待できます。ベトナムの人件費は、中国の3分の1~2分の1程度です。

製造業の課題として、近年の外需の低迷や国内の電力不足なども懸念されていますが、多くの海外企業から製造拠点として選ばれています。ベトナムは2007年にWTO(世界貿易機関)に加盟してから、外資100%の小売業の参入が可能になりました。

そのためベトナムへの海外企業の進出が増加し、市場経済も活性化しています。サービス業においては、とくに外食産業の増加が今後も見込まれています。

今後も経済成長が期待されるベトナム市場

ベトナムには、人口ボーナス期による市場の発展や今後も期待できる経済成長を始め、豊富な労働力、利便性の高い立地など海外進出先としてのさまざまなメリットがあります。

労働力

現在ベトナムは15歳以上65歳未満の人口「労働生産人口」比率の高い、人口ボーナス期を迎えています。平均年齢も31歳と若く若年労働者が多い点が、日系企業などが検討する海外進出先としての高いメリットになっています。

また、儒教の教えに基づく勤勉な性格や識字率の高さ、繊維産業が盛んなため細かい作業に適正があるなど、仕事に対し真面目に向き合う働き手が豊富です。女性の労働参加率が高いところもベトナムの特徴のひとつであり、日系企業の海外進出の際にも労働力を確保しやすいでしょう。

ベトナムの人口ボーナス期は、2040年頃には終わるとも予測されています。今後10年でベトナムの人口が急速に高齢化するとの予測を受け、ベトナム政府は30歳までの結婚と35歳までの2人目出産を推奨するなど、人口減少対策に力を入れているため、今後の人口減少は緩和されるかもしれません。

ベトナムでは都市部よりも農村部の人口の方が多いことから、地方の労働力も注目されています。ベトナムの南北を短時間で行き来できる「南北高速道路」などの交通インフラも整備されたため、地方への進出がしやすくなり、労働力が確保しやすい地方に製造拠点を設ける企業も増加しつつあります。

ベトナム進出をする製造業の外資系企業の多くは、アパレル関係を始めとして豊富な労働力を活かした生産方法に投資を行ってきました。それが近年では、労働者の賃金上昇や生産性の向上、品質改善などを目的として工場の自動化が取り入れられるようになっています。

労働力の豊富さだけでなく生産性の高さが確立すれば、海外進出先としてさらに選択されやすくなります。

立地の優位性

ベトナムの立地条件も、海外進出先として選ばれる条件のひとつです。ベトナムは東南アジアの中央に位置しているため、中国やASEAN諸国の中間地点として各地にアクセスしやすい点が大きなメリットです。

ASEAN諸国やインドシナへ向かう際の海路の拠点、陸路では中国に接している好立地から、輸送費などを抑えて貿易が行えます。ベトナムは、中国のみに生産拠点を置くリスクを避けるため、チャイナ・プラスワンの拠点として選ばれている国でもあります。

米中対立の激化や中国への投資や事業に対するリスクが高まっている現在では、中国から生産拠点を移す企業も少なくありません。原材料や部品の調達などをこれまでと大きく変えずにすむという立地面のメリットから、ベトナムが選ばれるケースが増加しています。

今後の経済成長

ベトナムは若い労働者が多いため、今後の経済成長が期待できる国です。労働者の賃金が今後上昇していくと、個人消費や住宅投資などの消費市場も拡大が見込めます。

中間層や富裕層の拡大が期待されるベトナムは、自社製品を販売する市場としても有力な候補先です。生産と消費の両方の成長性が大きく、進出先としても好ましいでしょう。

1980年代に開始したドイモイ政策は、輸出の拡大、外国投資の誘致などで経済の発展を促す政策です。ドイモイ政策によって、それまでは不可能だった個人財産の取得や起業も可能になりました。

ドイモイ政策の導入で、社会主義政策を緩和し、貿易の自由化・規制緩和による外資系企業の参入が可能になってからは、WTOへの加盟や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加も認められました。国際通貨基金(IMF)の予測では2023年のベトナムのGDP成長率は6.2%、2023年のベトナム政府の設定するGDP成長率目標は6.5%です。

2022年の実質成長率は前年比で8.02%と、政府目標を超える高い成長率を達成しています。また、IMFの予測では、2023年~2027年の期間にASEANのなかでも最も成長するとされています。

ベトナムへのビジネス展開における注意点

ベトナムでのビジネス展開では、注意しなければならない点もあります。高度人材の確保・管理、インフラ整備など経営上の注意点を把握しておくと、効果的な対策が行えるでしょう。

高度人材の確保

ベトナムには、進出企業が求める高度なITスキルや専門的な技術・知識を持った人材、大学等を卒業した「高度人材」の獲得競争が激化しているといった課題もあります。ベトナムの約70%の労働者が技能不足で進出企業の投資に対してニーズを満たしていないとされるため、高度人材の確保はベトナム進出時の重要な課題といえるでしょう。

企業は、生産自動化やデジタル化の推進に向けて現地の技術を持つ人材を獲得しなければならないため、技術者や幹部候補獲得に向けて、優秀な学生を早期に囲い込むケースも増加しています。ベトナムでは、進む経済成長に合わせて最低賃金の引き上げが行われています。

今後も最低賃金の引き上げは行われるため、人件費の増加にも注意しなければなりません。

人材管理

ベトナムは離職率が高い国で、1年の間に20%もの人材が離職しています。優秀なベトナム人を採用したとしても、優秀な人材は日系企業以外でも採用されやすいため、昇給やキャリアアップなどを目的にすぐ転職してしまうかもしれません。

ベトナムには家庭を大切にする文化が根付いているため、基本的に残業をせずに帰宅します。残業が多い会社は労働者からの人気がなく、すぐに労働者が辞めてしまいます。

残業の上限時間も月に40時間と、日本よりも少ない時間が定められていて、残業時の割増賃金は高額に設定しなければなりません。ベトナム人労働者の流出を防ぐには、現地の文化を尊重して勤務環境を整えることが大切です。

フレンドリーでコミュニティの形成を好むベトナム人が過ごしやすいように、ベトナム人同士がコミュニケーションをとりながらマネジメントを進められる体制を構築するなどの工夫で、人材流出を防ぐ必要があります。

インフラ整備

ベトナムには、経済の発展に対してインフラ整備が遅れているといった課題があります。アジアのほかの国に比べてもインフラが遅れているため、公共交通機関、電気、水道などの整備が未発達です。

交通渋滞、停電の発生などの課題は、急速な経済成長を支えるため早期に解決をしなければなりません。そのため、ベトナム政府はインフラ整備に向けた大型プロジェクトを次々と導入しており、段階的ではありますが、数年後の課題解決を目指しています。

まとめ

ベトナムは、高い経済成長率から海外進出企業が増加している国です。若い人材が豊富で人件費も低いため、費用を抑えながらのビジネス展開も可能です。

さまざまな政策の実施、インフラ整備などにより外資企業の誘致を進めているベトナムは、今後の発展が期待できる進出先といえるでしょう。都内スタートアップの海外進出をサポートする「X-HUB TOKYO」では、海外展開に必要な情報の発信だけでなく、実例を踏まえたアドバイスやサポートを提供する機会も設けています。

また、海外のエコシステムやグローバルオープンイノベーション、日系企業の事業創出をテーマとするイベントなども随時開催しています。最新のイベント情報をチェックして、海外展開に向けた一歩を踏み出してみてください。

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hawaiiwater

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