ASEANの中でも安定した成長と消費市場の成熟に期待が持てる国ベトナム。中国への投資リスクからの逃避先としても選ばれています。ベトナムに海外進出を検討する企業に向けて法人設立の注意点や法人税についてまとめました。
ビジネス環境が整いつつあるベトナム
ベトナムは南北に長い国で、政治の中心地ハノイのほか、商業的中心市ホーチミンが有名です。位置としては中国とタイの中間に位置していて、アジア進出を見据えた投資戦略としてベトナムに進出している企業も数多くあります。
2014年以降年6%前後の安定した成長を見せ、個人消費も安定しています。新型コロナウイルスの影響で2020年、2021年は落ち込みましたが、2022年第1四半期の経済成長率は5%を超えるまで回復しました。
ベトナム自体が消費市場として有望なうえに、周囲にもたくさんの国々があるため貿易がしやすい点もベトナムの魅力です。ベトナムはWTO加盟を果たしてから外資規制が緩和され、ビジネスも行いやすい環境になりました。交通網などのインフラ整備も徐々にではありますが、整っていくと予想されます。
ベトナムでの会社設立形態
ベトナムでの設立形態には、「現地法人」「支店」「駐在員事務所」の主に3種類の方法があります。日本企業がベトナム進出時に選択するのは「現地法人」の形態が一番多いです。それぞれの特徴について見ていきましょう。
現地法人
現地法人はさらに5つの形態に分かれています。日本では「株式会社」が一般的ですが、ベトナムでは「有限責任会社」を設立するのが一般的な方法です。
有限責任会社は、法人登記業務や設立後の管理も比較的簡単です。それぞれのメリット・デメリットを比較し、どのような進出形態が自社の事業内容に合っているのか検討するのがよいでしょう。
現地法人の「会社形態」
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一人有限責任会社(LLC):出資者が1名の場合
個人でも法人でも設立することができます。日本企業が単独で出資する場合は外資100%の子会社となるため、外資規制のない業種での進出に適しています。
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二人以上有限責任会社(LLC):出資者が2名以上50名以下の場合
パートナー企業やベトナム企業と共同出資をして、新しい会社を設立する「合弁会社」の場合に、この方法が選ばれています。日本企業の約8割がこの設立形態を選択しているようです。
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株式会社(JSC):出資者が3名以上必要
日本の株式会社と同じです。コスト面や設立までにかかる時間の問題から、日本企業が「株式会社」の形態を選択することは多くありません。
組織や企業が会社の所有者となることはできませんが、以下の形態もあります。私人企業については法人格を有することもできません。
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合名会社
会社の共同所有主として、共同経営する合名社員2人以上の出資により設立します。合名出資者は個人である必要があり、会社のすべての義務に対して自己の財産で責任を負うのが特徴です。
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私人企業
1人の個人が企業の全活動に関し、出資・所有する設立方法です。自己の全財産をもって自ら責任を負うという形態が「一人有限会社」とは異なります。
駐在員事務所
現地法人に次いで選ばれているのが、「駐在人事務所」です。駐在員事務は「現地での市場調査」や「本社との連絡業務」を目的としているため、契約の締結や営業活動はできません。
支店
支店は、親会社の拠点として活動ができます。ただし、ベトナムでは一部の業種を除き、支店の開設が認められていません。
会社設立の注意点
外資規制
ベトナムでは、日本企業を含むいわゆる外資系企業が会社を設立する場合、その出資については「投資」として扱われます。そのため日本企業や外国企業は「外国投資家」として、投資法のネガティブリストにはじまり、複数の投資関連の国内規制を受けることになります。また世界貿易機関(WTO)加盟時に批准されたWTOコミットメントについても注意を払う必要があります。
資本金
会社の設立にあたり、基本的には最低資本金に関する規定はありません。会社が自由に決定することができます。ただし銀行業や不動産業など業種によっては制限があるケース、また資本金少ないと判断された場合には、増額を要求されるケースもあります。
証明書の取得
外資系企業である日本企業は、ベトナムで会社を設立する際に「投資登録証明書(IRC)」の取得が必要です。続いて、日本の登記事項証明書にあたる「企業登録証明書(ERC)」を取得申請しなければいけません。それぞれの申請のためには必要な書類が細かく定められています。追加書類の提出などで遅延が生じることも少なくないことから、余裕をもって準備を進めましょう。
参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「外国企業の会社設立手続き・必要書類」
ベトナムでの法人税
ベトナムの法人税の標準税率は2016年から1月1日から20%となっています。ベトナムではベトナム法人か外資法人なのか、それとも支店なのかに関わらず事業から生じた所得は法人税の対象です。ベトナムで法人税を納税する義務があるのは、内国法人と外国法人に大別されます。
内国法人はベトナムの法律に従って設立された企業や、製造、卸売業などから課税所得を得る各種団体、共同組合法に従って設立されて運営がなされる組合などが該当します。
一方で外国法人は外国の法令により設立された法人で、ベトナム国内に恒久的施設を有する者、ベトナム国内を源泉とする所得を有する者を言います。そのため外国法人であっても恒久的施設を保有している場合は法人税が課されます。
ただし、石油、ガス事業に関してはプロジェクトごとに32~50%の範囲となります。また銀や金、宝石の探査、開発をおこなう企業にはそのプロジェクトの地区に応じて、40、もしくは50%の税率が適用となります。
ベトナムの税務上の優遇措置
ベトナムでは新規投資プロジェクトに対して、規定された奨励分野、奨励地域およびプロジェクトの規模に基づいて優遇措置が受けられます。優遇措置が適用されなかった2009~2013年の期間に認可された事業の拡張プロジェクトにおいても、特定の要件を満たせば優遇措置が付与されます。優遇措置が受けられるプロジェクトには以下のものがあります。
ベトナム政府による奨励分野
教育、ヘルスケア、スポーツ/文化、ハイテク、環境保護、科学研究、技術開発、産業基盤開発、農産物と水産物の加工、ソフトウエアの開発および再生可能エネルギー
開発奨励対象の工業製品製造に従事するプロジェクト
(i) ハイテク分野をサポートする製品
(ii) 衣料、繊維、履物、電子補修部品、自動車組立、および機械分野をサポートする製品で、2015年1月1日時点で国内製造されていないもの、もしくは国内製造されているもので欧州連合(EU)あるいは同等の品質基準を満たすもの
奨励地域
適格経済区、ハイテク区、特定の工業団地および社会・経済的に困難な地域など
大規模製造プロジェクト
総資本が6兆ベトナムドン以上、かつライセンス取得から3年以内にベトナムに払い込まれるプロジェクトで、一定の要件を満たす場合
一定の条件を満たしたプロジェクトは優遇措置として通常は10%および20%の優遇税率が、優遇対象事業活動の所得発生日から、それぞれ15年および10年にわたり適用されます。また一定の条件を満たすと適用期間を延長することもできます。
また優遇措置として免税と減税が用意されています。優遇されるプロジェクトの活動は課税所得発生年度から一定期間法人税が免税となり、一定期間は適用税率が減税となります。ただし、売上計上開始から3年以内に課税所得が生じない場合には、4年目から免税・減税が開始するなど、免税と減税の的確条件は規則で細かく定められています。
ベトナムの短期滞在者免税制度
ベトナムでは短期滞在者免税制度も利用することができます。所得税の課税は給与の対価となる役務を提供した国でおこなわれるのが原則です。しかし、日本とベトナムの租税条約によって、条件を満たす短期滞在者は勤務先での課税を免れることができます。短期滞在者の適用条件は以下の通りです。
- ベトナムでの滞在期間が課税年度(1月1日~12月31日)に183日までであること
- 現地法人から給与や手当が支給されていないこと
- 現地法人が給与を負担していないこと
ただし、短期滞在者免税制度はベトナムにとっては税収の減少に直結するため、申請後に税務調査で否認されるリスクもあります。申請には申請書類が必要なので、出張などで利用する場合は入念に準備しておきましょう。
まとめ
ベトナム経済は2000年代に入ってから注目されるようになり、インフラ整備も進められました。また真面目で勤勉というベトナムの国民性はビジネス相手としても仕事がしやすいと言われています。若くて質が高い労働力は日本企業にとっても貴重な戦力です。ベトナムは日本とは違う税制をしいています。優遇制度など現地の税制を知って、グローバル戦略を計画してください。