インドのビジネス展開には、どのような基礎知識が必要になるのでしょうか。インドは、世界有数の膨大な人口、広大な国土を持つ国です。

今後の人口増加も予測されていて長期的な経済成長が期待されているため、海外進出先としても注目を集めています。IT産業の発展も著しい「インドのシリコンバレー」と呼ばれる都市を中心に、数多くの海外企業の拠点や、スタートアップ企業が存在する国という点でも、重要な国と考えられるでしょう。

大きな可能性を持つインドへの進出に必要となる基礎知識、日本とは異なる文化、商習慣などの注意点をまとめました。

インドの基礎情報

企業のインド進出を決定する前には、インドの情報を押さえておくことが重要です。インドの特徴から、どのようなビジネス展開が適しているのでしょうか。

インドの面積・人口

インドは、南アジアに位置する共和制の国家です。首都をニューデリーに置くインドは、国土面積が日本の約9倍の約328.7万㎢と、世界第7位の広大な国土を有しています。

人口は14億人を超え、今後も増加が見込まれているため、人口増加を背景とした経済成長も期待できるでしょう。

インドの公用語・宗教

インドの公用語はヒンディー語と英語です。ただし、インドは多数の州で構成されているため州ごとに「民族」「宗教」「言語」などが異なり、公用語以外に憲法で認められている州の言語が21種類ある、多言語国家でもあります。

インドの主な宗教は国民の79.8%が信仰しているヒンドゥー教で、他にはイスラム教徒が14.2%、キリスト教徒が2.3%、シク教徒が1.7%、仏教徒が0.7%、ジャイナ教徒が0.4%を占めるなど、宗教的にも多様性のある国だと言えます。仏教発祥の地とされるインドですが、現在の仏教徒は人口の1%にも満たない程度です。

主要産業

インドの主要産業は、農業・工業・IT産業などです。広大な国土面積の42%が農地、労働人口の半分以上が農業に従事しているインドは、農業が盛んな国としても知られています。

・農業

農業はインドのGDPの約2割に当たる産業です。農業用地の約6割の面積で主要農産物の米や小麦、トウモロコシなどの穀物、残りの面積でさとうきび、バナナ、マンゴー、牛乳などさまざまな農産物が栽培されています。

・工業

GDPの約16%を占める工業(製造業)もインドの主要産業からは外せません。インドの自動車部品産業は現在成長を続けており、2026年までには世界第3位の自動車部品製造国になると予測されています。

インド政府は製造業の強化のために、「Make in India」の政策を掲げて製造業の売上拡大や雇用創出を推進しているため、大きな成長が期待できるでしょう。

・IT産業

IT産業がGDPに占める割合は約8%です。「インドのシリコンバレー」と呼ばれる都市「バンガロール」に、世界的なIT企業の多くが拠点を設置して、グローバルなIT戦略の策定、研究開発などを行っています。

インドのIT産業の発展は、アメリカ合衆国との時差が12時間あることも影響しています。時差のおかげで、アメリカからインドへ夜までに送った仕事が翌朝には完成して戻ってくる流れが作られたため、効率的な開発が可能になったのです。

多くのインド人が英語を使える点も、IT産業の発展を後押ししています。

世界中から注目の集まるインド市場

インド市場は、人口ボーナス期や経済規模などから、世界でも注目が集まっている市場です。IT産業においては、多くのユニコーン企業も輩出されています。

人口ボーナス期

国連経済社会局の推計によると、2023年半ばにインドの総人口は約14億2,860万人に達し、中国を抜いて世界第1位となりました。今後も増加を続け、2050年には約16億7,000万人に達すると予測されています。

インドでは、総人口の4割が25歳以下であり、35歳以下が6割以上を占めています。労働人口の割合が高い「人口ボーナス期間」が継続しており、この期間は2040年代の前半から後半まで続くと考えられているため、インド経済の成長はまだ続くでしょう。

インドの人口増加の背景には、衛生環境が改善され乳幼児の死亡率が低下したこと、人口抑制の政策が現在行われていないことなどが影響しています。インド市場は若年層の労働力が多く、さまざまな商品やサービスの需要が増加しているため、ビジネス展開を検討する企業がさらに増えていくと予想されています。

世界3位が見込める経済規模

インドはG20の国々の中でも高い成長率が見られる国です。インドの実質GDPは1970年から右肩上がりが続き、2014年以降には中国を超える成長率を出す期も見られ、2023年にはイギリス・フランスを超える世界第5位まで上昇しました。

2022年4月から2023年3月までの2022年度には、2011年基準の実質GDP成長率推計値が、前年度比7.2%になっています。年間GDPの総額は、過去最高の160兆642億5,000万ルピー(1ルピー=約1.7円換算、約272兆1,092億円)まで成長しました。

個人消費を表す民間最終消費支出が、前年度比7.5%の増加と、GDP成長率のうち最大の増加割合を占めています。インドの経済成長はまだ続き、2027年には日本とドイツを抜く世界第3位になる可能性が高いでしょう。

IT産業の注目度の高さ

インドのIT産業の成長は、1980年代からソフトウェア開発などに力を入れはじめたことから始まっています。アメリカのシリコンバレーからインドに帰国するソフトウェア技術者たちが増加し、2000年頃からはインドのソフトウェア生産が急速に伸びて代表的な産業の一つになるまでに発展しました。

1947年のイギリスから独立した当時は、インドの大きな産業は農業などの第一次産業だけでした。ところが1980年代に、インド政府がバンガロールでIT技術者の育成と外資系IT企業の誘致を行ったことにより、その後ICT(情報通信技術)関連産業が大きく発展しています。

インドにはカースト制度があり、身分によってなれる職業が限られています。IT関連の分野は新しい産業のため身分に影響されにくいことから、安定した仕事ができる可能性を求めて優秀な人材が集まった背景も、IT産業の発展につながりました。

バンガロールの発展は、インド進出を行う大手IT企業、スタートアップの中小企業急増にもつながっています。企業からの投資や共同展開などの形でも行われ、2022年にはインドのスタートアップ企業は7万5,000社に達しました。インドで生まれたユニコーン企業も2021年には44社、22年には23社と、アメリカ・中国に次ぐ世界第3位の数となっており、多くの企業が成功を収めています。

インドへのビジネス展開における注意点

インドへのビジネス展開では、インド特有の文化、商習慣などの違いに注意しなければなりません。また、インフラ整備の遅れも見られるため、事前に対策をとるなど対応を考えておく必要があるでしょう。

カースト制度

インドのカースト制度は、大きく4種類の階層に分かれた身分制度です。職業や結婚相手が制限され、差別の原因にもなるため、現在インド政府は制度を禁止していますが、いまだに社会には制度の影響が残っています。

商習慣や文化の違い

日本人が誤解しやすいインドの文化、ビジネス習慣にも気を付けなければなりません。インドで返事をする際、ノーの場合は日本同様に「頭を横に振る」ジェスチャーを行います。

ただし、イエスの場合には「頭を横に倒す」ジェスチャーで応えます。日本では疑問に思った際に首をかしげる動作のため、イエスでない場合にうっかりその動作をして誤解されてしまうかもしれません。

左手が不浄の手とされている文化にも注意が必要です。相手に失礼にならないように、握手や名刺交換、ものを渡す場合などには、右手を使います。ビジネスパートナーとの食事の際にも、左手を使わず右手で食べるようにしてください。ただし現在では、ナイフやフォークなどを準備してくれるレストランも多いため、それほど問題にはならないでしょう。

日本では子どもの頭を撫でるのはよくある行為ですが、インドでは頭が神聖なものとされているため、子どもの頭に触れる行為も失礼になります。インドの文化を事前によく確認して、失礼のない行動を取ることが大切です。

インフラ整備

現時点では道路・鉄道などの輸送サービスや移動手段、水道・電気など生活上のインフラは、まだ整備が遅れています。とくに電力インフラは需要に対する供給がかなり不足しているため、トラブル発生によるリスクを避けるため、事前によく市場調査を行ってください。

電力不足に不安が残る場合には、自家発電設備を準備するなどの停電対策で、ビジネス環境を整えなければなりません。インド政府は経済強化に向けたインフラ整備を推進しています。

高速道路・鉄道などの整備、新たな物流ルートの開発も進めているため、インフラ整備への期待も望めるでしょう。今後の事業展開先としても注目が集まっています。

まとめ

インドでのビジネス展開では、日本に不足している充実した労働力の確保や、成長を続ける大規模な市場への参画を可能にします。海外企業の拠点やスタートアップ企業も多く、ユニコーン企業が多く誕生しているインドへの進出によって、企業の今後の成長も期待できるでしょう。

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