アジアの成長をけん引してきた中国に陰りが見えはじめています。そこで安定した成長を続けるインドが注目を集めるようになりました。今後の成長余地が大きなインドは海外進出を目指す日本企業にとっても魅力的。インドで会社設立を目指す企業にとって追い風となる法人税のニュースをまとめました。

2019年に大規模な法人税率の引き下げを実施したインド

インドは2010年代安定した成長を続けてきました。しかし、2019年には今まで景気をけん引してきた個人消費が落ち込み、景気悪化が加速しました。

そこでインドのニルマラ・シタラマン財務相は、2019年9月に法人税率の引き下げなどの政策を発表しました。経済成長の加速と投資促進を目的としたもので、その中で特に目玉となったのが法人税の減免でした。

法人税率の引き下げ

インド内企業に対し、総収入金額に基づき25%または30%だった法人税率を2019年度以降は22%まで引き下げました。

さらに税務上の控除や各種インセンティブなどを利用しないことを条件に、この法人税の低減を受ける企業に対しては、会計上の利益の18.5%が法人税額を上回る場合に課される最低代替税(MAT)も免除としたのです。

インドは新興国の中では比較的法人税が高い国でした。しかし、この減税によってサーチャージ、目的税(セス)を含めた実効税率は25.17%となりました。国際的な競争力を維持するために、また外国企業を誘致するにもこの法人税減税は大きな意味があったのです。

新設の製造会社に対する優遇法人税率

2019年に発表された景気刺激策の中では、新しい製造企業の投資誘致も推奨されました。2019年10月1日以降に新規会社設立される製造企業に対し、法人税率を2019年度から15%とするオプションが発表されたのです。

この優遇税率の適用を受けるには税務上の控除やインセンティブなどを利用しないことが前提で、かつ2023年3月31日までに製造を開始することが条件となります。サーチャージ、セスを含めた実効税率は17.16%となり、同企業に対してもMATは免除となります。

インドの法人税率の計算方法

インドでは法人の種類によって基本税率が異なるため、まずはインドの法人について確認しましょう。インドの法人形態は、「内国法人」「外国法人」「LLP(有限責任事業組合)」の3つに分類されます。

インドの法人形態

1.内国法人

現地の会社法に基づいて設立された現地法人のことです。外資100%の企業であっても「内国法人」となります。

2.外国法人

インドの外国法人には、支店や駐在員事務所・プロジェクトオフィスが該当します。

3.LLP(有限責任事業組合)

LLPとは、LLP法に基づいて設立・組織運営をする会社のことです。LLPは株式会社のように利害関係者に対する責任が出資額に限定される有限責任制度である一方、利益分配比率は出資額に比例しなくてもよいなど、柔軟性の高い法人です。

課税対象

内国法人とLLPは全世界の所得が対象となり、外国法人はインド国内での所得が課税対象となります。

基本税率と実効税率

インドの基本税率と実効税率は、各形態によってその税率が異なります。実効税率とは法人税と追徴課税金、そして健康教育目的税の3つを掛けた合計の税率のことです。

「実効税率=基本税率×追徴課税金×健康教育目的税(一律4%)」

基本税率

インドの基本税率は、内国法人が30%、外国法人が40%、LLP(有限責任事業組合)が30%です。

実効税率

実効税率は法人の所得により、1000万ルピー以下、1億ルピー以下、1億ルピーを超える場合の3つにそれぞれ分類されています。ただし、どの法人形態であっても1000万ルピー以下は免税となります。これを踏まえて計算をすると、内国法人の実効税率は17.16%~34.94%、外国法人の実行税率は41.60%~43.68%となります。

内国法人に適用される軽減税率

インドの内国法人の場合、「軽減税率」の適用の他、前述した2019年の景気刺激策で引き下げられた「新税率」を選択することもできます。従来の税率よりも新税率の方が低い税率を設定されているため、基本的には新税率を選択することで最終的に納める法人税が少なくなります。

軽減税率を適用できる法人

内国法人の売上高が40万ルピー以下の場合に適用可能です。

新税率を選択する場合

全ての法人が対象である新税率は22%、2023年4月1日までに事業運営を開始した新設製造会社であれば15%の法人税率が適用されます。ただし新税率を選択した場合には、最低代替税(MAT)が免除となりますが、税額控除などの恩典を享受している場合には、それらが利用できなくなるので注意が必要です。

従来の税率を選択する場合

税額控除や優遇措置を受けている場合、従来の税率を選択することも可能です。控除期間が満了した後には、新税率に切り替えることもできます。

参考サイト:日本貿易振興機構(JETRO)「税制」

税制改革でビジネスのしやすい国へ

インドのGSTも外資誘致の追い風に

メイク・イン・インディア政策

「メイク・イン・インディア」とは、2014年9月にモディ首相により掲げられたスローガンです。GDPに占める製造業や工業の割合を増やすことで、さらなる雇用の創出や輸出の拡大を目的としています。

インド政府はインド経済発展のために製造業の強化を図るさまざまな政策を打ち出してきました。国内製造業保護政策として、継続的に関税の引き上げをお行っています。

反対に、積極的な外国資本の誘致も行いました。インフラの整備や外資規制の緩和、法人税の減税など、現在も続いていますが、製造業のGDPに占める割合を2022年までに25%にするという目標は難しくなっているのが現状です。

物品・サービス税の統一

インドでは約5年前にわたる、2017年に物品・サービス税(GST)の導入という税制改革がおこなわれました。物品やサービスのサプライに対して課税する全国一律の間接税を導入したのです。

2018年になると、中央政府と州政府の双方に、GSTを物品およびサービスの提供に対して課す権限が与えられる二重GSTモデルが採用されました。モノやサービスを提供する事業者はそのモノやサービスを提供する州でGST登録を取得します。

GSTにかかる税率は、生活必需品は0%、ほとんどの物品は18%、高級品やサービスは28%です。基本的にはモノやサービスの提供者がGST納付義務を負います。インドは広い国土を持つ国です。州によって分けられていた税制が統一されたことで税処理の負担が減少して、無駄な生産コストも削減されました。

外国資本が参入しやすい環境に

また複雑な課税方式は、ルールを悪用した脱税や横領が起きやすくなります。シンプルな制度にすることで、不正が起きにくくなり、お金の循環も正常化されました。従来の税法は州ごとの違いが大きく、インドに海外進出する企業にとっても足かせとなっていました。

この税制改革によって海外企業にとっても余計な税コストの削減につながり、インドのビジネス環境が改善したと好意的な評価を受けています。

新型コロナウイルスからの経済回復

インドでは2020年3月の感染拡大により、全土でロックダウンが実施されました。そのため2020年度のインドは1979年以来41年ぶりの初めてのマイナス成長を記録しました。現在では、ワクチンの普及や規制緩和により、インド経済は回復傾向にあります。

ただし食品や原油価格の高騰に加え、コロナウイルスによるサプライチェーンの混乱、ウクライナでの戦争も加わりインフレが加速しています。エネルギーの輸入依存度の高いインドは内需への懸念もあり、今後も緩やかなペースでの回復になると予想されています。

まとめ

法人税の減税によってインドに子会社を置いている企業、インド企業と合弁している海外企業に対しても法人税率が下がりました。海外からの投資が増加することによって、景気が回復することが期待されていましたが、新型コロナウイルスの猛威により経済成長はマイナスへと落ち込んでしまいました。

コロナ禍にあっても、モディ首相は「自立したインド」という新たなスローガンを打ち出し、メイン・イン・インディアの強化を表明しています。優秀な研究者が多いインドはR&D拠点としても魅力的です。法人税やGSTなどの税制改革を通じて今後も投資が加速されていくことが予想されるインドの動向に注目です。

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