2020年のEU離脱は、イギリス経済に大きな転換点をもたらしました。しかし、変化はチャンスの顔も持ち合わせています。新たな潮流が生まれるイギリス貿易・イギリス進出において、スタートアップ企業が掴むべきチャンスとはどのようなものでしょうか。
本記事では、イギリス貿易の現状、スタートアップ企業が見逃せないテクノロジー分野やクリーンテクノロジー、ヘルステック分野などの成長市場、さらに市場参入に成功するための具体的な戦略やポイントについて解説していきます。
EU離脱後のイギリス貿易:課題とチャンス
イギリスは2020年1月31日にEUを離脱し、2020年12月31日までの移行期間を経て、2021年1月1日に離脱が完了しました。EU単一市場からの離脱は、物流なども含め貿易構造に変化をもたらし、新たな課題と同時にチャンスも生み出しています。
貿易における変化と課題
2020年のEU離脱によってイギリスとEU間には関税や税関手続きが発生するようになり、貿易手続きは以前より複雑化しました。特に、リソースが限られる中小企業にとって、これらの変化への対応は容易ではありません。イギリスとEUとの間で貿易業務を行う企業は、新たな事務手続きや書類作成などに追われ、追加のコストや時間的な負担を強いられています。さらにEU離脱は、イギリスとEU間の貿易摩擦、サプライチェーンの混乱、人材不足などの課題も発生させています。
イギリス貿易の新たな潮流
EUからの離脱は、ネガティブな側面ばかりではありません。
世界との自由貿易
イギリスはEU離脱後も、世界各国との自由貿易協定を積極的に締結し、グローバルな貿易ネットワークを拡大しています。日本企業にとっては、関税や規制の障壁が低くなり、貿易がより円滑になる可能性があります。
デジタル化とイノベーション
イギリス政府はデジタル経済の推進に力を入れています。フィンテック、バイオテクノロジー、AIといった革新的な技術を持つスタートアップ企業にとっては、魅力的な市場となっています。
グローバルな人材と文化
多様な人材と文化を受け入れるイギリスは、国際的なビジネス展開を目指すスタートアップ企業にとって理想的な環境です。
日英包括的経済連携協定(日英EPA)を追い風に
2021年1月1日の日英包括的経済連携協定(日英EPA)の発効は、多くの日本企業、特にスタートアップ企業にとって大きな追い風となります。関税の削減・撤廃、原産地規則の緩和、手続きの簡素化は、イギリス市場への参入障壁を下げ、貿易を促進する大きな力となるでしょう。
ただし、EPAの恩恵を受けるには、原産地規則など、注意すべき詳細なルールが存在します。事前に十分な情報収集を行い、戦略的に活用することが重要です。
スタートアップ企業が注目すべきイギリスの成長市場
イギリスは、世界で最もオープンな経済圏の一つです。その高い技術力、革新的なビジネス環境、そして多様な文化は、スタートアップ企業にとって魅力的な市場となっています。
EU離脱という変化はありましたが、下記に挙げる成長市場は、今後もその勢いを維持すると予想されます。世界中のスタートアップ企業にとって大きなビジネスチャンスであると言えるでしょう。
高い競争力を誇るイギリスのテクノロジー分野
イギリスは、フィンテック、AI、バイオテクノロジーなど、革新的なテクノロジー分野において高い競争力を誇っています。
フィンテック
ロンドンは世界有数の金融都市であり、フィンテック分野の中心地です。政府の支援もあり、フィンテック分野は急速に発展しています。
イノベーションが起きているのは、モバイル決済、オンライン融資、ブロックチェーン技術など、さまざまな分野です。たとえば、「Revolut」 や 「Monzo」 などのデジタルバンク、 「TransferWise」 などの国際送金サービス、 「GoCardless」 などのオンライン決済サービスといった革新的なサービスが次々と生まれています。
AI
世界トップレベルのAI研究開発拠点があり、AI関連のスタートアップ企業にとって最適な環境です。Googleに買収されたAI開発企業「DeepMind」 や創薬プロセスにAIを活用する「BenevolentAI」などの世界的なAI研究機関が拠点を構えています。
政府はAI分野への投資を積極的に行っており、多くのスタートアップ企業がAI技術の開発や応用に取り組んでいます。
バイオテクノロジー
製薬会社やバイオテクノロジー企業が集積し、ライフサイエンス分野で高い競争力を誇ります。遺伝子解析技術開発企業の「Oxford Nanopore Technologies」や、 がん治療のためのT細胞療法の開発に取り組む「IAdaptimmune」など、革新的な技術を持つ企業が数多く存在します。
社会課題解決を牽引する成長分野
世界的な社会課題解決に向けて、クリーンテクノロジーやヘルステック分野も、イギリスで大きな成長を遂げています。
クリーンテクノロジー
環境問題への関心の高まりから、再生可能エネルギーやサステナビリティ関連産業が急成長しています。太陽光発電、風力発電、電気自動車、省エネルギー技術など、さまざまな分野でスタートアップ企業が活躍しています。
その中でも注目されているのが、再生可能エネルギー会社の「Octopus Energy」やグリーンエネルギー会社の「Ecotricity」といった、環境問題への貢献を目指すスタートアップ企業です。
ヘルステック
高齢化社会の進展に伴い、医療費削減と質の高い医療サービス提供が求められており、ヘルステック分野は大きな可能性を秘めています。 オンライン診療サービスの「Babylon Health」や「Push Doctor」、女性向けのヘルステック製品を開発する「Elvie」など、革新的なサービスが次々と生まれています。
イギリス貿易・イギリス進出を成功に導く戦略
イギリス市場への進出は、多くの日本企業にとって魅力的な機会となりますが、同時にさまざまな課題も伴います。市場のニーズや競合状況、法規制などを的確に把握し、適切な戦略を立てることが、貿易成功への鍵となるでしょう。
現地市場への適応:ローカライズとパートナーシップ
市場調査
イギリス市場のニーズ、競合、規制などを調査し、自社の製品・サービスのポジショニングを明確化します。市場調査ツールを活用したり、現地企業、現地スタートアップとのネットワーク構築を通したりして、より深い理解を目指しましょう。
市場調査は、ローカライズを行う上で不可欠なプロセスです。市場調査を通じて、イギリスの消費者のニーズや文化、習慣などを把握します。それに基づいてローカライズを行うことで、より効果的に製品・サービスを市場に浸透させることが可能です。
現地企業とのパートナーシップ
共同事業、代理店契約、投資など、現地企業との連携により、市場への浸透を加速させることができます。現地企業とのパートナーシップは、市場へのアクセス、顧客基盤の拡大、ブランド認知度の向上などに役立ちます。
成長を加速:政府支援策の活用
イギリス政府は、企業のイノベーションや成長を促進するためのさまざまな支援策を提供しています。助成金や税制優遇制度などを活用し、資金調達や事業拡大を有利に進めましょう。
参考: 日本貿易振興機構(ジェトロ)英国「外資に関する奨励」
効率的な顧客獲得:デジタルマーケティング
オンラインショッピングの普及率が高いイギリスでは、デジタルマーケティングは顧客獲得に欠かせません。特に、COVID-19の影響で多くの消費者がオンラインへ移行したため、その重要性はさらに増しています。
ソーシャルメディアの活用やウェブサイトの多言語化、特にB2Bビジネスにおいては、専門性の高いターゲティングが可能な「LinkedIn広告」による訴求など、効果的なマーケティング戦略を展開することが必要です。ローカライズされたコンテンツを提供することが、ターゲット層に対するアプローチをより強化します。
まとめ
EU離脱後のイギリス市場は、スタートアップ企業にとって大きなチャンスと課題が共存する市場です。EU規制から脱却したことで、イギリスは独自の経済政策や規制を推進し、新たな産業の創出や海外企業誘致を積極的に行っています。イギリス貿易の新たな波に乗り、政府の支援策などを活用し、規制や政策への柔軟性と現地企業との連携を強みとすることで、大きなビジネスチャンスを掴みましょう。
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