アメリカは世界最大の経済大国であり、多くの日本企業がビジネス拡大や新規市場開拓を目的に進出を検討しています。その際に不可欠となるのが「ビジネスビザ」です。アメリカのビザ制度は目的ごとに区分が明確で、短期出張と長期駐在では取得すべきビザが異なります。また、「90日以内ならESTAで足りる」と誤解されることもあり、制度理解が不十分なまま進めると、入国審査でのトラブルにつながる可能性があります。

この記事では、アメリカの主要なビジネスビザの特徴、申請プロセス、実務上の留意点を整理し、日本企業がアメリカ進出の第一歩を確実に踏み出すための基礎知識を紹介します。

アメリカのビジネスビザとは

アメリカでビジネス活動を行うには、目的に応じた非移民ビザの取得が必要です。ここでは、ビジネスビザ全体の位置づけと基本的な考え方を整理します。

ビジネスビザの位置づけと目的

アメリカのビジネスビザとは、商談、契約交渉、企業内転勤、投資など、営利目的の活動を行うために発給される非移民ビザの総称です。短期の出張から長期の駐在、投資を通じた事業運営まで目的は多様であり、ビザの種類によって認められる活動範囲や報酬受領の可否が異なります。

短期商用向けのビザでは報酬を得ることはできませんが、現地法人での勤務や経営活動を行うビザでは給与や報酬を受け取ることが可能です。こうした制度の違いを理解し、自社の事業内容や滞在目的に最も適したビザを選択することが、スムーズな渡航と事業運営につながります。

電子渡航認証システム(ESTA)との違い

日本はビザ免除プログラム(VWP)の対象国であり、電子渡航認証システム(ESTA)を利用すれば、ビザを取得せずに最長90日までの短期滞在が可能です。ESTAでは観光や短期商談、会議出席などが認められますが、現地での報酬を伴う活動や長期滞在は認められていません。

また、ESTAでの入国は原則としてアメリカ国内での在留延長や在留資格変更ができません。そのため、駐在、投資、長期的な事業運営を目的とする場合は、B-1、L-1、E-1/E-2など、目的に応じたビジネスビザが必要となります。

渡航中に行う活動の内容を踏まえ、ESTAで対応できるのか、それともビザ申請が必要かを慎重に判断することが重要です。ESTAを誤って利用すると、入国審査でのトラブルや将来の渡航制限につながる場合もあるため、実際の活動内容に合ったビザを選ぶ必要があります。

主なビジネスビザの特徴と要件

アメリカのビジネスビザは、目的・滞在期間・報酬の可否などによって要件が異なります。特に短期の商用渡航では、電子渡航認証システム(ESTA)で対応できる内容との線引きが重要です。滞在期間が90日を超える場合や、ESTAでは認められないサービス提供が含まれる場合には、B-1ビザの取得が必要となります。さらに、企業内での就労や投資・貿易といった専門的な業務には、L-1やEビザが対象となります。

以下の表では、代表的な3種類の特徴を比較しています。

ビザの種類 主な目的 就労・報酬 滞在/有効期間(目安)
B-1 商用渡航(90日超の商談、アフターサービス等) 就労不可/アメリカ源泉の報酬不可(経費等の実費弁償は可) 通常最長6か月(延長可)
L-1A/L-1B 企業内転勤(管理職・専門知識) 就労可/現地法人からの給与支給可 初回最大3年(新規設立は1年)/L-1A最長7年/L-1B最長5年
E-1/E-2 通商(E-1)・投資(E-2) 就労可/現地法人からの給与支給可 ビザ有効最長5年(日本)。入国ごと在留2年、更新可

B-1ビザ(短期商用)

B-1ビザは、短期間の商用活動を目的とした非移民ビザで、商談、契約交渉、展示会参加、現地企業との会議、契約に基づくアフターサービスなどに利用されます。滞在期間は通常6か月以内で、アメリカ国内での延長申請も可能です。

B-1ビザでは、アメリカ側の雇用主から報酬(給与・謝礼など)を受け取る労働は認められません。ただし、日本の企業に在籍し、日本側から支払われる給与に基づく出張業務は許容されており、渡航費・宿泊費などの実費精算は労働対価とみなされないため認められています。この場合、アメリカで課税対象となる所得は発生しないため、通常はアメリカでの申告・納税義務は生じないとされています。一方、活動内容が実質的な就労と判断される場合は、税務上の問題や入国管理上のリスクが生じる可能性があります。

申請時には、招へい状、商談スケジュール、企業関係書類など、渡航目的を示す書類の提出が必要です。活動内容が就労と見なされると入国を拒否される場合があるため、許容範囲を明確に整理しておくことが重要です。

【補足】電子渡航認証システム(ESTA)との主な違い

項目 B-1ビザ ESTA (電子渡航認証システム)
滞在可能期間 最大6か月(延長申請可) 最大90日(延長不可)
主な活動の差 90日超の滞在、契約に基づくアフターサービスが可能 90日以内の商談・会議のみ(アフターサービスは原則不可)
手続き 大使館・領事館での面接が必要 オンライン申請のみで面接不要

L-1ビザ(企業内転勤ビザ)

L-1ビザは、日本の親会社や関連会社からアメリカ現地法人へ、管理職・役員(L-1A)または専門知識を有する社員(L-1B)を派遣する際に利用されます。申請には、本社と現地法人間の関係性を示す資料、事業の実体、対象者が申請直前の3年間に1年以上継続して、アメリカ国外の関連会社(日本の親会社や第三国の関連会社など)で勤務していた事実を証明する書類が必要です。

滞在期間は初回最大3年で、延長によりL-1Aは最長7年、L-1Bは最長5年まで可能です。ただし、新規法人を設立する場合は、初回の滞在期間が1年に制限されます。

E-1/E-2ビザ(通商・投資ビザ)

E-1(通商)およびE-2(投資)ビザは、日米友好通商航海条約に基づき、日本国籍を有する企業や個人がアメリカで一定規模の貿易または投資活動を行う場合に発給されます。E-1は貿易活動、E-2は投資活動を対象としており、事業の実体・継続性・雇用創出などが審査の要点となります。

最低投資額の明確な基準はありませんが、事業の実質性があり、申請者が経営責任を担う立場にあることが求められます。審査期間は在外公館や混雑状況によって数週間〜数か月と幅があります。ビザ有効期間は、日本国籍の場合は最長5年で、入国のたびに通常2年の在留許可が付与され、更新・再入国により継続が可能です。

ただし、ビザの有効期限が残っていても、在留期間(I-94と呼ばれる出入国記録で定められた滞在許可期間)が切れていれば合法的な滞在はできません。継続して滞在する場合には、在留期間内に米国市民権・移民局(USCIS)へ延長申請を行う必要があります。

ビザ申請の流れと実務上の留意点

ビジネスビザの申請には、種類ごとに異なる手続きや書類準備が必要です。ここでは、共通する流れと審査で重視されるポイント、実務上の注意点を整理します。

申請の一般的な流れ

ビジネスビザの申請は、米国務省のオンライン申請システム(CEAC)でオンライン申請書(DS-160)を作成・提出することから始まります。申請料を支払ったうえで、在日米国大使館または各地の米国総領事館の予約サイトから面接日時を確保します。面接当日は当該公館の領事官による面接が行われ、申請者の渡航目的・活動内容・申請資格などが確認されます。

L-1やEビザの場合は、企業の請願(I-129申請など)を事前に米国市民権・移民局(USCIS)へ提出する必要があり、この審査に数週間から数か月要することもあります。そのため、渡航予定から逆算し、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。

また、ビザの種類によっては面接前に書類審査が行われる場合もあり、その際には提出内容の正確性と一貫性が求められます。

審査で重視されるポイント

審査では、申請目的や予定される活動内容が、申請するビザの要件と合致しているかが重要な確認ポイントとされています。内容が不明確であったり、申請書と実際の業務内容に矛盾があったりする場合、追加資料の提出や却下につながることがあります。

また、申請者の経歴や職務内容、企業の事業実態、雇用関係の証明なども審査対象となります。特に企業内転勤ビザ(L-1)では、本社と現地法人の関係性や事業規模を示す証拠資料が必要となります。さらに、過去の渡航履歴や活動履歴も参照されるため、申請内容に一貫性を持たせることが信頼性向上につながります。

申請書類の準備と作成上の注意点

申請書類は、滞在目的と雇用・経営の実態を裏付けるものであるため、内容の整合性と正確性が最も重視されます。主な提出書類には、オンライン申請書(DS-160)、企業の登記証明書や事業概要書、雇用証明書・給与明細、招へい状や商談スケジュール、出資・取引関係を示す書類などがあります。

特にDS-160の記載内容と面接時の説明が一致していない場合、追加審査や発給遅延の原因となる可能性があります。英文書類の作成では、表現の正確性に注意し、必要に応じて専門家による確認を受けるとよいでしょう。企業規模にかかわらず、ビジネスの実体とビザ申請・滞在の目的を示す客観的資料をそろえることが、スムーズな審査通過の鍵となります。

長期的なビジネス展開を見据えた対応

アメリカ市場で中長期的に事業を拡大する場合、将来的にビザの種類を切り替える戦略も選択肢となります。たとえば、初期段階ではB-1ビザで商談や市場調査を行い、現地拠点設立後にL-1やE-2ビザへ移行する、といった段階的な進出モデルを検討する企業も増えています。

ビザ要件は移民法改正や政策変更によって変更される可能性があるため、常に米国国務省(DOS)や米国市民権・移民局(USCIS)が発信する最新情報を確認し、必要に応じて国際法務を専門とする弁護士などの専門家の助言を受けながら柔軟に対応することが重要です。

まとめ

アメリカのビジネスビザは、短期商用から企業内転勤、投資活動まで多様な種類があります。適切なビザを取得するには、渡航目的や事業内容を整理し、必要な手続きを早めに進めることが重要です。各ビザの制度や要件は随時変更される可能性があるため、最新情報を確認しつつ、経験豊富な専門家の助言を得ながら円滑な手続きを進めましょう。

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【この記事の執筆】

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「X-HUB TOKYO」Webマガジン編集部

この記事は、東京都主催の海外進出支援プログラム「X-HUB TOKYO」の編集部が監修しており、スタートアップの海外進出に関して役立つ情報発信を目指しています。

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