スタートアップが深セン進出を行う場合、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょう。深セン市は「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれ、最先端技術を生み出す大企業が集まる都市です。

ゼロから始まった外国企業の誘致が成功し、他では見られないほどの経済発展を遂げています。深セン市への進出には様々な優遇制度があり、イノベーションを促進するエコシステムが活用できるなどのメリットが期待できます。

しかし急激な発展により、人件費の向上、中国政府による法改正が発生するかもしれないリスクなど、深セン市進出にはデメリットもあります。注意すべき点に気をつけながら、深セン市の様々なメリットを活かした進出を行うことで、スタートアップの成功を実現できるでしょう。

深セン市とは?「アジアのシリコンバレー」と呼ばれる理由

深セン市は、近年の急成長により世界から注目を集めている都市です。中国国内だけでなく世界的なIT企業が集まるビジネス都市として、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれています。

発展と共に人口が急増した大都市

深セン市は中国の南、広東省に位置する人口1,300万人を超える大都市の一つです。北京市、上海市、広州市と並ぶ、中国の4大都市としても知られていますが、実は深セン市は1980年頃には人口3万人ほどの漁村でした。

それが、何もないところから外国企業の誘致など大々的な取り組みによりイノベーションを進めた結果、国内外から優秀な人材が集まり、人口が爆発的に増加して現在の大都市に変わりました。IT企業をはじめ多くの企業が誘致されてから、深セン市では40年の間に人口が急増しています。

東京都とほぼ同じ面積の深セン市ですが、その人口密度はすでに東京都を超えているところも大きな特徴と言えるでしょう。中国本土でも一番人口密度が高いとされ、人口の約65%が20~30代を占めるなど、多くの労働人口に恵まれています。

中国の主要都市上位を誇る域内総生産(GDP)

深セン市の成長は経済面でも目覚ましく、域内総生産(GDP)は、2021年に3兆600億人民元を超えています。上海市、北京市についで中国第3位のGDPを誇る経済都市に成長、現在でも経済成長が伸び続けている深セン市は、サービスや商品を展開する場としても魅力的な市場と言えるのです。

深セン市には、これまで農村が都市の半分ほどを占めていました。主だった産業が存在しなかったため、経済政策や外資企業の流入をスムーズに受け入れることができたと考えられています。

深セン市では、「ハイテク産業」「金融業」「運輸」「クリエイティブ産業」の4大産業が主要産業として知られています。1995年に深セン市の市長に就任した李子彬氏が世界技術開発に精通した人物でもあったことから、中でもハイテク産業が2019年のGDPで約65%を占める最も重要な産業へと成長しました。

中国国内初の経済特区

深セン市は、中国国内で初めて経済特区に指定された地域です。中国企業だけでなく中国進出を目指す外国企業を誘致するため、1980年に外国企業向けの税制優遇策が導入されました。

その際には、深セン市の他に「珠海市」「汕頭市」「厦門市」にも経済政策が実施されていましたが、大きく成長したのは主に深セン市です。深セン市の隣には、金融・貿易業が世界的に発達している香港が位置していることから、香港からの資金が投入された影響もあり、急速な発展が実現しました。

1995年に深セン市のハイテク産業をサポートする対策がさらに充実し、急激な成長が続いた後には、2019年に中国政府が「大湾区構想」を発表、経済力やテクノロジーの増強で地域の発展を目指す取り組みが行われています。これにより、深セン市はさらに発展が見込まれるでしょう。

スタートアップが深センへ進出する「メリット」

スタートアップのオフィスの画像スタートアップの深セン市への進出には、様々なメリットがあります。深セン市はイノベーション都市であり、日本企業を含め外国企業が進出しやすい制度が充実している、スピーディーにビジネスを進められる環境が整っているなどのメリットがあるため、多くのスタートアップに海外進出先として選ばれていると言えるでしょう。

イノベーションを支えるエコシステム

世界有数のイノベーション都市とされる深セン市では、イノベーションを支えるエコシステムが形成されています。深セン市は、新しい商品やサービスを創造する力が高く、シリコンバレーよりも様々なものが生まれるとされています。

これまで中国は「世界の工場」として製造の下請け業種が発展していました。ところが、中国政府は2015年に国内での企業・イノベーションを促進するため、「大衆創業・万衆創新(大衆の起業・万民のイノベーション)」のスローガンを発表しました。

イノベーション企業の誕生や成長をサポートするエンジェルファンドの存在や公的機関によるファンドの形成、深セン市内外の大学と「テンセント」「ファーウェイ」などの大企業が連携するエコシステムなどにより、深セン市はイノベーション企業を次々と生み出す都市になっています。

経済特区における外資優遇制度

深セン市は、中国の経済特区の一つです。誘致を目的とする優遇措置があるため、日本から海外進出を目指している日系企業などの外資系企業も、進出時にはメリットが活用できるでしょう。

深セン市には、外国企業が現地法人を設立した際に、オフィスを無償提供する、条件に応じて現地で新規雇用した場合の人件費や、居住費のような費用を政府が負担するという支援制度が整っています。この外資優遇制度の影響もあり、民間企業が比較的少ない中国の中でも、深セン市ではハイテク企業のほとんどが民間企業となっています。

IT企業のスピードに対応可能なビジネス環境

深セン市では、1980年代から香港や台湾の企業の下請けとして数多くの組み立て工場が建てられました。電子機器など香港からの発注を生産してきた下請け工場の存在や、梱包、物流などのサプライチェーンがある深セン市だからこそ、イノベーション企業のスピーディーな開発を可能としています。

「深センの1週間はシリコンバレーの1か月」とも言われる深セン市の製品化の速さは、新製品開発のスピードを競うIT企業にとって大きなメリットとなります。

深セン進出の「デメリット」

深セン市に進出する際には、メリットだけではなくデメリットも存在します。急激な経済発展によるコストの上昇や中国の規制に関するリスク、知的財産侵害問題などの点について注意が必要です。

経済発展に伴う人件費の上昇

深セン市の急激な経済発展は、現地の労働者賃金の上昇にも影響を与えました。深セン市が発展し生活水準が向上したことから、人件費や中国語の教育など人材を管理するためのコストが上昇している点が、今後深セン進出におけるデメリットと考えられます。

現場で技術指導を行う人材の流出もあり、若者を中心に従業員の定着率が悪化している流れにも注意しなければなりません。

中国政府による規制や法改正のリスク

中国政府の実施している経済特区の外資系企業に向けた優遇制度は、中国経済に変化が生じたときなどに政府が急な方針転換を行った場合、その制度が変更になるなどの影響を受けやすいリスクがあります。また、米中の貿易戦争の影響などから、リスク回避のために生産拠点を中国国内からベトナムなどへ移転するケースは今後も増えていくでしょう。

中国市場での知的財産侵害への懸念

中国市場では知的財産の侵害がたびたび問題になっているため、新製品の開発には、その知財へのリスクが懸念されています。ただし深セン市の場合は、2019年に中国国内で初めて「深セン経済特区知的財産権保護条例」が発令された都市でもあり、他の都市よりも知財の保護に力を入れています。

まとめ

深セン市は、ハイテク企業のイノベーションをサポートするエコシステムが形成され、経済特区としての外国企業向け優遇制度が充実していることから、大きな経済発展を遂げた都市です。ビジネスの優位性をかなえるスピーディーな開発を可能とするサプライチェーンの存在など、深セン市のスタートアップを支える基盤を活用することで、日本からの進出を成功につなげられるでしょう。

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