海外展開や海外進出した場合、日本国内だけで事業展開している時とは違った課税方法になります。税金の支払先や税務処理などは、進出方法によっても異なることがあり、注意が必要です。

海外を視野に入れたら、日本と進出先の税法、さらに両国の税金を調整する租税条約なども検討しなければいけません。海外進出で抑えておくべき税金の支払い方法や税務処理についてチェックしてみましょう。

海外進出先によって変わる税金

海外進出時の税金問題で注意したいのは、国ごとに税制や税率が違う点です。日本国内での税制と進出先の違いはもちろん、どこの国に進出するかによっても変わります。海外進出では、進出先の法律とともに、その国と結んだ租税条約を確認することが必要です。

租税条約とは

租税条約は、その国の法律に先んじて適用される条約で、二重課税を排除や脱税・租税回避を防止する役割を持っています。租税条約は日本と相手国の二国間条約で、それぞれの国の経済状況などによって内容が協議されます。そのため、国によって異なった内容となり適用範囲もさまざまです。

2022年12月現在、日本と租税条約を締結している国と地域は約150。条約を締結していない国もあり、そういった場合には同じ取引を行ったとしても軽減措置などがなく税制面で不利になることもあります。また租税条約の適用を受けるには、所轄の税務署へ「租税条約に関する届出書」の提出が必要です。自動で適用される訳ではない点にも注意してください。

海外進出の方法によって変わる税金

海外進出と言えば、多くの人は海外に支店や支社を出し、本社と連携しながら事業を進める直接投資を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、輸出入なども海外進出の方法の1つだといえますし、直接投資だけが海外進出ではありません。そして、海外進出のやり方に応じて、税金の支払先やかかる税金の種類が変わります。

輸出の場合の税金

海外進出と言えば、多くの人は海外に支店や支社を出し、本社と連携しながら事業を進める直接投資を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、輸出入なども海外進出の方法の1つだといえますし、直接投資だけが海外進出ではありません。そして、海外進出のやり方に応じて、税金の支払先やかかる税金の種類が変わります。

輸出取引の税金

日本の企業が海外に支社や支店などを持たずに事業展開する方法としては、日本の商品を海外企業に輸出する方法があります。これは、海外進出の方法としてはリスクもコストも抑えられるものです。

税金に関しては、現地に支店や支社を置いていないため、基本的には利益に対して日本で法人税を納めるのみとなります。

支店・支社を通して自社商品を販売した場合の税金

支社や支店を持っている場合、そこでの販売利益には現地の法人税がかかります。さらに日本は全世界の利益を対象に課税する「全世界課税」が基本なので、日本でも法人税がかかります。

これを二重課税といい、その回避方法が「外国税額控除」です。同じ利益に二重に税金がかかってしまうため、海外で課税された分を一部控除してもらえる制度となります。

現地法人(子会社)が自社商品を販売した場合の税金

現地法人(子会社)を設立すると、本社と現地法人はそれぞれ別の法人となります。そのため、本社は日本に税金を支払い、現地法人は設立された国に法人税を支払います。本社と現地法人はグループですが、別会社として所得が分散でき、リスクも分散されます。

ただし、源泉徴収などの事務が煩雑になりやすく、赤字で撤退する場合にも経費計上ができません。

現地法人(子会社)が親会社から商品を仕入れて販売した場合の税金

現地法人(子会社)が日本の親会社から仕入れて商品を販売した場合には、税率の違いによる税金逃れの可能性があり、それを防ぐために「移転価格税制」が適用されます。また、日本では、軽課税国に現地法人を設立した場合に「タックスヘイブン対策税制」が適用されることがあります。

海外進出に先立って駐在員事務所を設置した場合

海外進出を行う場合には、事前の調査や準備のために現地に駐在員を派遣することがあります。駐在員は海外事業がスタートするまで、現地のパートナー企業選びや交渉、現地調査などでたびたび現地を訪れます。このような駐在員事務所は、利益が出る施設ではないため基本的に税金はかかりません。

海外での課税と軽減のポイント

海外でも日本でも、基本的に税金がかかるポイントは「営業活動を行っていたかどうか」と、「収益があったかどうか」です。駐在員事務所のように海外に常駐できる拠点があっても、営業活動をしていない場合には税金はかかりません。反対に、拠点を設けていなくても国内から従業員を派遣してサービスを提供した場合には、現地で課税対象になることがあります。

また、海外支店や支社、現地法人を作る場合、法人格の有無によって課税のされ方が違うため、自社の経営状況などによってどのように展開するか選ぶことが必要です。海外支店や支社を置いた場合、これらは法人として独立していないため、日本の本社と所得を合算して課税されます。

一方、現地法人の場合には独立して現地で課税されます。そのため、支店で損失がある場合には本社と合算することで税金を抑えることが可能です。このことから、利益が出にくい滑り出しには支社や支店として展開し、利益が出てから現地法人にするといった変更の戦略も必要となります。

国際税務で確認しておくべき「制度」

最後に海外進出や海外ビジネスを行う際に必要となる知識、国際税務について解説します。国際取引においては、日本と進出先の国での課税を意識する必要があります。まずはこのコラム内でも登場した、確認しておくべき3つの制度を理解しておきましょう。

外国税額控除制度

外国税額控除とは、国際的な二重課税を調整する目的で設けられた制度で、外国で課税された外国税額について、一定の範囲内で日本の所得税額から控除する仕組みをいいます。

日本では居住地のある国で生じた所得のみではなく、国外で生じた所得も含めて課税するという「居住地国課税制度」を採用しています。しかし、日本国内の居住者や内国法人が所得の生じた国で課税する「源泉地国課税制度」を採用している国で所得を得た場合には、どちらの国でも課税されるという二重課税の問題が発生するのです。この二重課税を排除することを目的として作られたのが「外国税額控除」です。

移転価格税制

移転価格とは、国外の関連企業との取引価格のこと。移転価格税制とは海外の関連企業との取引において、国外への利益の移転を防止するために導入された制度です。

海外進出した企業では、関連企業との間での取引が増加することも多いでしょう。しかし、この取引価格を市場価格に比べて安くするなど、関連企業内で自由に取引価格を決めることを許してしまうと国内の税収が減ってしまうことにつながります。

税率の低い国での利益を増やして税率の高い国での利益を減らすなど、所得を移転するような操作が出来るようになってしまうからです。この利益操作が行われたと思われる場合には、第三者との取引で成立するであろう「独立企業間価格」で再計算され課税されることになります。

タックスヘイブン対策税制

タックスヘイブン対策税制は、海外子会社を利用した租税回避を図る行為を抑止する目的で作られた制度です。タックスヘイブンとは、税負担のない、もしくは税負担の極めて軽い国や地域のことを指します。

わが国の内国法人等が、法人税や所得税の軽減を目的として、このタックスヘイブンに実質的な活動のない海外子会社(ペーパーカンパニー等)の設立や本社を移転し、より多くの利益を確保しようとします。この行為に対応するために、一定の条件に当てはまる外国関係会社については、一部の利益またはすべての利益を内国法人等の所得とし、合算して課税するという制度です。

なお、実際に経済活動実態がある場合には、この制度の対象外となります。2017年の税制改正によって、対象となる海外子会社の範囲拡大や課税所得の対象範囲の拡大など大幅な見直しが行われました。どのような企業がペーパーカンパニーと見なされるのか、何が対象となるのか、より複雑になっているため細かい確認が必要です。

まとめ

海外進出を目指すにあたっては、各国の税制や租税条約の内容を検討して、取引に不利益が生じないか、慎重な判断が必要です。国ごとの条約の内容や税率などを知るとともに、進出の方法による税金の違いにも配慮して計画を進めていきましょう。

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