近年、多くの日本企業が海外進出を果たしており、これから海外を目指そうとしている企業も多いでしょう。海外進出を成功させるために必要なことの1つに、目標・目的の明確化があります。

漠然とした魅力やグローバル化への憧れなどもあるかも知れませんが、それ以外の論理的な目標・目的や、海外進出に求めていることは何でしょうか。目標・目的をはっきりさせ、フォーカスすることで海外進出はよりスムーズになります。

目標・目的を「明確にすべき理由」

海外進出は、今や多くの日本企業が取り組んでいるビジネス戦略の1つ。多くの資金や人材を投入し、中長期的な計画で行われるビックビジネスを成功させるためには、目標・目的を明確にすることがとても重要です。目標・目的という軸がぶれることで、計画や方向性も曖昧になり、失敗するケースも多いのです。

海外進出の準備段階では、目標・目的に応じた情報収集やマーケティング戦略の策定、進出国やエリアの選定などがなされます。自社が何を求めているかによって、必要な情報も違いますし、ターゲットとする国やエリアも大きく変わるでしょう。目的を明確化することで、計画の練り直しや進出方法の選定、人材の確保などもスムーズに行えます。まずは、目標設定で得られる効果やメリットを具体的に紹介します。

1) 進出先で達成したいことが明確になる

目標を設定することで、企業は進出先市場でどのような成果を得たいのかを明確にすることができるでしょう。進出先市場において何を達成したいのか、どのようなビジネス戦略を採用するべきか、どのような資源を割り当てるべきかを考えられます。また、明確な目標を設定することで、海外進出の成功を定量的に評価できるため、ビジネスプランを策定するための指標となります。

2)戦略やアプローチを設計できる

進出先市場における環境や競合状況を把握し、企業の戦略や適切なアプローチの設計ができます。海外進出では、現地の法律や規制・文化的な違い・言語の問題などが出てくる可能性が高いです。企業はこれらの要素を考慮しながら、現地の需要に応じた製品やサービスを提供することによって、現地の顧客との信頼関係を築けるでしょう。また、競合分析から、適切な価格設定やマーケティング戦略の策定が可能になります。

3)パートナー選定の基準になる

目標や目的が明確であれば、進出先市場において戦略的なパートナーを選定することができます。希望する条件によって、販売代理店や現地の企業との提携などの選択肢から選びましょう。協力をして欲しい項目や具体的な内容が決まっていれば、パートナーとの役割分担や業務フローをスムーズに調整できます。

4)撤退条件・撤退時期の判断基準となる

目標が曖昧な海外進出は、企業の方針をも曖昧にし、撤退の判断を鈍らせます。目標・目的を明確にすることで、撤退時期を見逃すリスクを減らすことができるでしょう。撤退を余儀なくされるケースの多くは、経営に問題を抱えているのに、判断が遅れてダラダラと現地でのビジネスを続けてしまうこと。そのうちにより大きな負債やダメージを負うことがあります。

そのため、自社の求めていたものが手に入らないことが判明した段階で、速やかに撤退する判断を下すことも大切です。目標・目的が定まっていれば、その判断も容易になるでしょう。

5)ブランドイメージの向上につながる

目的を設定することで、企業がどのような価値を提供するかが明らかになると、進出先市場において企業のブランディングが促進されるという効果もあります。顧客はその価値を理解し、企業との信頼関係を築くことにつながるでしょう。また目標・目的が社会的な課題解決や価値観と合致している場合には、企業は社会的にも評価をされ、ブランドイメージの向上につながることもあります。

6)社内メンバーの意識を高められる

進出先市場でのビジネス展開においては、社内のメンバーが一体となって協力することが不可欠です。目標・目的を設定することは、社員を一つの目的に向かって動かす力になるでしょう。進出先において何を達成すべきかをそれぞれが明確に理解し、主体的に考え行動していくことが期待されます。

海外進出における「目標・目的設定の例」と「注意点」

海外進出する企業が目標・目的として挙げるものとしては、以下のようなものがあります。安易な目標・目的設定で失敗することもあるため、注意点も同時に考えていきましょう。

1)コストの削減

原材料や資材、人件費などのコストを抑えることを目標・目的とする企業は、以前からアジアを中心に多くなっています。製造費を安くすることで、安価な輸入品や競合との競争力をつけようというものです。こうした目標・目的を持って海外進出した企業の中には、賃金の上昇によって原価が上がり、思ったような成果が得られなくなった企業もあります。

さらに、コスト削減を優先するあまり、原材料や資材の品質を落とし、結果的に製品やサービスの品質が低下してしまうことも考えられます。人件費を抑えるために、現地のスタッフに十分な教育やトレーニングを行わず、技能不足や品質不良の原因となる可能性もあるでしょう。

コスト削減を目標・目的に海外進出を検討する際には、これらの問題点を事前に把握し、新興国の賃金上昇も見越した計画を立てるようにしてください。また、人件費の上昇とともに人材教育も進んでいるため、人件費の削減だけでなく、海外の優秀な人材の確保も海外進出の目標・目的として設定するとよいでしょう。

2)グローバル市場への販路拡大

海外進出を目指す企業の多くが期待するのが、大きな海外市場です。日本企業や日本製品は知名度も人気も高いため、参入に成功しやすそうに見えるでしょう。しかしながら、日本の売り方や製品にこだわり過ぎることで、現地の市場で受け入れられず、シェアを確保できないこともあります。海外進出においては、現地の文化や習慣、法律や規制など、さまざまな課題に直面することになります。

進出先の市場ではすでに競合が激化している分野もあり、参入障壁が高いこともあるでしょう。世界がすでに注目している産業の場合には、世界を相手に熾烈な戦いを強いられることも覚悟しておかなくてはなりません。世界を相手にするのか、現地のシェアを増やすのか、それによっても成否は分かれるものです。安易に参入するのではなく、現地の文化や嗜好、習慣などに合わせてローカライズした製品やサービスを提供することが重要です。

また、国内とは異なるマーケティング戦略を練り直す必要があり、受け入れられるまでにトライ&エラーを繰り返すことになるかもしれません。海外市場で競合相手との競争に勝つには、より効果的な広告やプロモーションを行う必要があります。現地の消費者に対して、製品やサービスの特徴をわかりやすく伝えることが求められるでしょう。

海外市場に参入することは、リスクも伴います。海外市場では、現地の規制に違反する可能性があるため、法律には細心の注意を払うことを忘れないでください。国内事業が不安定な状態で海外へ乗り込むこともリスクとなります。海外市場への参入は一筋縄ではいかず、リスクも伴いますが、成功すれば大きな成果を得ることができます。

3)取引先への追随・要請による海外進出

大口の取引先や親会社などの海外進出や移転のタイミングに合わせて、海外進出を決めるケースもあります。特に中小企業に多く見られ、この場合は取引先からの受注確保・拡大が目標・目的となるでしょう。ただし、取引先からの受注は一つの目標・目的にはなりますが、頼り過ぎることで破綻する恐れもあります。取引先からの安定的、継続的な受注が見込めるかどうかを見極めるために、さまざまな市場調査、アプローチ方法を検討してください。

また海外進出に伴い、新たなビジネスチャンスを探ることもできます。たとえば、現地でのビジネスパートナーとの信頼関係を築くことで、現地の需要に合わせた商品を提供できるようになり、競合他社と差別化を図ることができるでしょう。現地で製造・販売を行ったり、新たな取引先を開拓したりするで、ビジネス拡大につながることもあります。

一方で、海外進出によって新たなリスクも生じます。現地の文化や習慣、法律や規制などの環境変化に対応するため、現地でのスタッフ採用や専門家の雇用、現地法人の設立など、多岐にわたる手続きが必要です。つまずいた時には自社としてどのような対策を持つか、慎重な判断が必要です。

「経営戦略の分析・見直し」から目標・目的を設定

海外進出には、さまざまなきっかけがあります。自社の経営を見つめ直し、客観的に分析することで、海外進出の目標・目的を絞り込むことができます。海外市場や若い人材、安価な資材など、魅力的な要素は多くありますが、なぜ海外進出が必要なのか、課題や戦略から目標・目的を明らかにすることが必要です。

企業としてのビジョンや経営方針・戦略を整理し、課題を明らかにすることで、海外進出によって課題が解決できるかどうかを探りましょう。ただし、海外進出はあくまでも解決策の1つであり、他にも解決方法があるかどうかも検討することが理想的です。

さらに海外進出といっても、直接投資以外の方法があることも覚えておいてください。たとえば、輸出やEC事業、ライセンス契約やフランチャイズ契約などは、直接投資よりもリスクが低く、資金も抑えられる方法とされています。とくに初めての海外進出に不安がある場合には、リスクや資金を押さえた方法による進出方法で対応できないか、検討することも大切です。

「事業計画策定」と「検討すべき内容」

事業計画の策定は、海外進出の目標設定において重要なステップです。計画策定には、海外進出に向けた目標・目的の明確化、進出先の情報収集・競合分析が含まれます。さらに、資金調達や販路拡大の方法など、多くの要素が含まれます。十分な時間と労力をかけて取り組みましょう。

1)目的・目標の設定

まずは、海外進出の目的や目標を明確にしましょう。企業によってその目的は異なりますが、代表的な目的としては、新規市場の開拓、収益アップ、リスクの分散、グローバル化の推進などが挙げられます。目的を定めることで、進出先の市場や競合環境を分析するための指標となります。

2)市場調査・競合分析

次に、進出先の市場や競合環境の調査が必要です。市場調査でチェックするのは、市場の規模や動向、消費者の嗜好やニーズ。さらに、現地の文化や習慣、法律や規制などです。競合分析では、競合他社の規模や強み、製品やサービスの品質や特徴、価格設定を確認します。これらの情報を収集することで、進出先市場での競争力やリスクを事前に把握することができます。

3)資金調達

資金調達や販路拡大の方法など、具体的なプランニングも必要です。資金調達には、自己資金や銀行からの融資、投資家からの出資などの選択肢があります。販路拡大には、代理店や販売ネットワークの構築、ECサイトの開設なども考えられるでしょう。

4)人事・法務手続き

人材確保の手段としては、現地で採用をする場合や、日本本社から従業員の派遣・出向を選ぶ場合もあるでしょう。法務手続きは、進出形態によって現地法人や支店などの設立準備や契約書の作成です。これらを整えることで、事業計画をより具体化していくことができます。

5)スケジュール・収益予測

事業計画は、具体的な数字やスケジュールも含まれます。収益や費用の予測、投資回収期間の算出、マーケティング戦略の立案など、詳細なプランニングが必要になります。また、事業計画には柔軟性を持たせることも重要です。市場環境が変化した場合や、思わぬトラブルが発生した場合にも、事業計画を修正できる余地を持たせることに注意してください。

まとめ

海外進出において目標・目的を明確にすることは、ビジネス展開の成功に不可欠なものです。企業は進出先市場の状況を把握し、適切な目標・目的を設定することで、競争力を持ったビジネス展開ができるようになります。

海外進出を考えるなら、目標・目的を明らかにした上で必要な情報収集や進出方法の選定など、綿密な事業計画を練っていくことが必要です。

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hawaiiwater

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