アジア・パシフィックのハブ拠点であるシンガポール。同国は近年、デジタル先進国としての躍進やスタートアップの台頭が目覚ましく、日系の大手を中心に地場の企業やスタートアップと連携する動きも加速しています。

日系企業がシンガポールに進出する際には、現地の事業を担う人材の獲得が欠かせません。自社が求める人材をシンガポールで獲得するには、どのようなポイントがあるのでしょうか。シンガポール市場の特徴とともに、人材獲得の秘訣を探ります。

シンガポール市場の特徴と傾向

シンガポールは人口が約570万人、面積は東京23区と同規模の小さな国です。しかしビジネスシーンにおいては、アジアのハブ拠点として国内外から注目を集めています。

例えば、各国のビジネスのしやすさをランク付けした世界銀行の発表によると、2018年には世界で最もビジネスがしやすい国の一つしてシンガポールがノミネートされました。近年はTencent(テンセント)やDell(デル)、HUAWEI(ファーウェイ)といったグローバル企業が相次いで研究機関や拠点を設けており、海外からの注目の高さも伺えます。

また、シンガポールの教育システムも海外から高く評価されています。世界中の高等教育機関の分析を専門とする英国企業Quacquarelli Symonds社が、論文の数や留学生の数などを元に算出した2021年の調査では、シンガポール国立大学(NUS)と南洋工科大学(NTU)の2つの地元大学が、アジア太平洋地域の大学ランキングで上位3位に選出されました。これらの大学は多様な人材を受け入れられる雇用形態の整備や、体系化された人事評価制度の導入を推進しており、結果として多くの留学生、優秀な研究人材の獲得に成功しているとみられています。

シンガポール政府はコロナ禍においても、海外からの優秀な人材の獲得や企業の誘致に力を入れています。2021年にはトップレベルのIT(情報技術)人材の誘致に向け、新たな就労ビザ「テック・パス」を導入しました。また、現在は一時的に停止されているものの、2020年には日本との間で公務やビジネス上必要な相互出張を認める「相互グリーン・レーン(RGL)」を開始するなど、海外企業の進出を促す動きも見られます。こうした国際需要を受け、シンガポール貿易産業省(MTI)は8月、2021年のGDP成長予測を6.0~7.0%へと上方修正しました。

日系企業がシンガポールで人材を獲得するために留意したい、5つのポイント

日系企業がシンガポールに進出しビジネスを軌道に乗せるためには、現地での人材獲得と育成が欠かせません。ここでは人材の獲得を進めるうえで重要となる、5つのポイントをご紹介します。

1:シンガポールの人材市場の特徴をつかむ

人材の流動性が高いシンガポールでは、自身のスキルアップ、キャリアパスに対しての考えを強くもつ人材が多いのが特徴です。現地では「LinkedIn」や「Glints」、「Glassdoor」といったプラットフォームを通じて職を探すケースも多く、日系企業が現地に進出する際には、同プラットフォームでの情報を充実させることも重要になります。

また、教育省は学生の就業支援の一環でインターンを推奨しており、多くの国内大学でインターンプログラムが導入されてます。正社員として働きながら大学に通う学生もいるため、定期試験のタイミングを考慮するなど、職場での理解が必要になるケースもあります。

2:ジョブディスクリプションの完成度を高める

シンガポールでは日本のような「総合職」採用の事例は少なく、スキルをベースとした専門職での採用が主流です。そのため、求める人材のイメージや役割を可視化したうえで、職務内容を吟味することが必要です。

求める人材の職務内容を明確にする際には、ジョブディスクリプションの完成度を高めることを意識しましょう。ジョブディスクリプションとは、職務を遂行するうえで必要となるスキルや条件、責任範囲を明記し、福利厚生などの雇用条件を詳細に記載したものです。ジョブのタイトルを魅力的に名付けるなど、企業側の工夫が求められます。

3:人材の定着度を高める社内制度を整える

人材を雇用した後は定期的な評価面談の場を設け、適切にフィードバックを行うなど、人材の定着を促す社内制度を整えましょう。社員のスキルアップにつながるよう、給与面以外にも魅力となる環境を整えることが重要です。

また、一定の条件を満たした場合、政府から教育研修費用に対して補助金を得ることも可能ですので、積極的に活用してみましょう。

4:賃金相場を調査する

シンガポールは国籍やビザの種類、言語能力等でも賃金の相場が大きく異なります。シンガポール進出時に獲得しておきたい人材の相場を調べ、社内ですり合わせを進めておきましょう。

5:多文化への理解をもつ

シンガポールは中華系が約75%、マレー系が約13%、インド系が約10%と複数の民族で構成される多民族国家です。そのため、異なる文化に接する際には相手へのリスペクトが欠かせません。従業員のなかには、宗教上の理由から食事が制限されていたり、1日に数回礼拝の時間が必要な人がいる場合もあります。就業上問題が発生しないようお互いの考えや希望を確かめておきましょう。

アジアに進出するうえで重要な心構えとは

シンガポールをはじめ、アジアではそれぞれの国ごとに市場の成熟度や特性が異なり、文化の違いから生じる考え方の差もあります。そのため日系企業がアジア展開を考える際には、前提として2つの心構えが求められます。

まず一点目としては、現地に関する情報は現地の目線で収集することを心がけてみましょう。どこにどのようなリーソスがあるのか、政府の施策に詳しい人物は誰かというように、必要な情報をどのように引き出せるかを考えることが大切です。特にシンガポールでは、外資企業に関する新しい法律が次々と施行されるため、最新の情報を得るためにも、幅広い情報源をもつように意識してみましょう。

そして二点目には、コミュニケーションスキルの重要性を認識しましょう。プロジェクトやタスクに関するコミュニケーションだけでなく、現地の人々と日々の雑談や会話を重ね、地道に人間関係を築くようにしてみてください。文化的背景や言語の異なるカウンターパートとのコミュニケーション能力の有無が、海外で事業を進めるうえでの鍵になります。

まとめ

本記事では、アジアのハブ拠点として国内外から高い評価を受けるシンガポールに焦点を当てながら、日系企業が同国に進出を考える際に重要となる人材獲得の秘訣をお届けしました。人材市場の特徴や賃金相場を把握するほか、採用時にはジョブディスクリプションの完成度を高めること、そして採用後も人材の定着を促す制度を整えるなど、企業側が意識したい5つのポイントをご紹介しました。

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