シンガポールの就労ビザにはどのような種類があるのか、また取得手続きはどう行えばよいのでしょうか。シンガポールに日本人駐在員を置く場合や日本人を現地採用する場合などには、現地での就労を可能にする就労ビザを取る必要があります。

シンガポールの主な就労ビザは2種類あり、雇用企業での就労に限定されるものなので、企業が従業員の就労ビザを申請することや税金の支払いが必要であるなどの特徴があります。主な就労ビザの情報やその他の就労ビザの情報、就労ビザの申請に必要なポイント制度の仕組みから申請の流れまで、シンガポールへの進出に役立つ情報をまとめました。

シンガポールの主な就労ビザ「2種類」

シンガポールで働く際には、就労ビザ取得が必要です。シンガポールの主な就労ビザは、「EP (Employment Pass)」と「S Pass」の2種類です。

それぞれ取得には、月額給与や勤める企業などの条件を満たしていなければなりません。

就労ビザの種類

EP (Employment Pass)は、経営層、管理職、専門職などの人材が取得可能な就労ビザです。企業が一定の条件を満たし、本人が業種、給与額などの決められた条件を満たしている場合に、EPの申請が可能です。ただし、EPは申請をしても審査内容によっては落ちる可能性があり、必ず取得できるとは限りません。

S Passは中技能熟練労働者が取得できる就労ビザです。月収などの条件があり、条件を満たしている場合のみ申請が可能です。企業ごとにビザの発行枠が決まっているため、企業は枠内の人数分しか発行できません。

EP (Employment Pass)

EPは、主に専門職、エグゼクティブ、シニア・マネージャー向けのビザです。企業の日本人駐在員、現地採用の日本人従業員などが取得しているケースが多いでしょう。

申請は、最低月額給与を超えていて、さらに後述するCOMPASS制度で40ポイント以上を取得しているときに可能になります。雇用主が申請するため、本人が手続きをする必要はありません。

・EPの概要

対象者 専門職・管理職・経営層人材
申請条件 最低給与:
・最低月額:5,000Sドル(ただし年齢に応じた金額、45歳では最低1万500Sドル)
※金融セクターは最低月額:5,500Sドル
(ただし年齢に応じた金額、45歳では最低1万1,500Sドル)
有効期限 初回:最高2年間、更新時:最高3年間(更新可)
取得費用 105Sドル
扶養家族ビザ 可、ただし本人の月給が6,000Sドル以上
備考 COMPASS制度で40ポイント以上が必要、求人サイトへの掲載義務あり

・EPの注意点

EPには、S Passのような人数制限がなく、雇用者数に応じた税金も不要です。ただし、企業はEPを申請する前に、同条件の人材募集広告をシンガポール政府が運営する求人サイト「MyCareersFuture」へ最低14日間掲載する義務があります。シンガポール人からの応募がない場合に初めて申請が可能になります。

S Pass

S Passは、技術職や管理職以外の人向けのビザです。月収がEPの申請基準に満たない若い日本人駐在員、現地採用の日本人などが主な取得人材と考えられるでしょう。

S Passの申請は取得条件の最低給与額を満たしていれば可能で、申請者は企業になります。

・S Passの概要

対象者 中技能熟練労働者
申請条件 最低給与:
<2023年9月1日以降の新規申請もしくは2024年9月1日以降の更新申請>
・最低月額:3,150Sドル(ただし年齢に応じた金額、45歳では最低4,650Sドル)
※金融セクターは月額:3,650Sドル
(ただし年齢に応じた金額、45歳では最低5,650Sドル)
<2025年9月1日以降の新規申請もしくは2026年9月1日以降の更新申請>
・最低月額:3,300Sドル(詳細未定)
※金融セクターは月額:3,800Sドル(詳細未定)
有効期限 最高2年間(更新可)
取得費用 75Sドル
扶養家族ビザ 可、ただし本人の月給が6,000Sドル以上
備考 企業ごとに発行可能枠あり、求人広告への掲載義務あり、雇用税の納税が必要
<2023年9月1日以降の雇用税>
・Tier1(S pass保有者が10%以下) 月額:550Sドル
・Tier2(S pass保有者が10%を超え15以下) 月額:650Sドル
<2025年9月1日以降の雇用税>
・Tier1(S pass保有者が10%以下) 月額:650Sドル
・Tier2(S pass保有者が10%を超え15以下) 月額:650Sドル

・S Passの注意点

EPよりは取得しやすいビザですが、企業の発行可能枠が定められているため、企業に枠がない場合も少なくありません。発行可能枠は業種ごとに異なり、製造・加工・建設・造船では全従業員の15%まで、サービス業では10%までと定められています。

企業は、S Passの保有者1人当たりに対する雇用税を納税しなければなりません。EP同様、申請前には同条件の人材募集広告を最低14日間掲載する義務があります。

またS Passは企業ごとに定められた枠のため、S Pass保有者が転職をする場合には、EPと同じように転職先の企業が新たに申請を行います。

配偶者パス(Dependant’s Pass)

EP保有者、S Pass保有者が条件を満たしている場合には、配偶者などの扶養家族対象の扶養パスを申請できます。DPは就労ビザではないため、DP保有者が会社で働く場合には自身でEP、S Pass、Work Permit などの就労ビザを取得しなければなりません。

・配偶者パスの概要

対象者 配偶者および21歳未満の子
申請条件 被扶養者のEPまたはS Pass保有者が月収6,000Sドル以上
有効期限 EPまたはS Pass保有者の有効期限と同じ

シンガポールのその他の就労ビザ「6種類」

シンガポールには、EP、S Pass以外にも6種類の就労ビザがあります。学生向け、高額所得者向けなどの就労ビザがあり、取得するビザによって対象者や条件、有効期間は異なります。

1.Training Employment Pass(TEP)

インターンシップで訪れる海外の学生や、会社の研修生が取得できる就労ビザです。認定された大学、専門学校などの学生、もしくは固定給で月額3,000Sドル以上の収入がある場合に申請ができます。

有効期間は最長で3か月、更新はできません。

・Training Employment Passの概要

対象者 海外の学生、研修生
申請条件 認定校の学生、固定給で月額3,000Sドル以上の収入がある人
有効期限 3か月(更新不可)

2.Personalised Employment Pass(PEP)

高所得者や専門職の外国人、高所得のEP保有者向けの就労ビザです。EP保有者で月額1万2,000Sドル以上の固定給がある場合、もしくは海外居住者で直近の月額給与が2万2,500Sドル以上の場合には申請が可能です。

申請者は本人、有効期間は最長3年間で、更新はできません。PEPは特定の企業の従業員に対してではなく個人に対して発行されるため、就職する場合に企業で就労ビザを申請する必要がなく、無職でも最大6か月シンガポールに滞在できます。

ただし、起業家やシンガポールで登記されている会社の株主兼取締役は申請ができません。

・Personalised Employment Passの概要

対象者 高所得者・専門職の外国人、高所得のEP保有者など
申請条件 2種類のうちどちらかを満たしている
・EP保有者で固定給月額1万2,000Sドル
・海外居住者で直近の月額固定給が2万2,500Sドル以上
有効期限 3年間(更新不可)

3.Work Holiday Pass(under Work Holiday Programme)

「Work Holiday」制度による就労ビザで、18歳以上25歳以下の学生や卒業生が利用できます。申請できる学生、卒業生は、シンガポール政府に認定された大学に限られます。

有効期間は6か月のみ、新規申請しかできません。

・Work Holiday Passの概要

対象者 8歳以上25歳以下の外国の学生や卒業生
申請条件 日本、香港、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス
ドイツ、オランダ、スイスの認定された大学の学生・卒業生
有効期限 6か月(更新不可)

4.Entre Pass

シンガポールで起業する外国人が申請できる就労ビザで、一定の業種で条件を満たした起業家、イノベータ、投資家が対象です。申請の条件は、起業家、イノベータ、投資家で異なり、政府系ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家などから最低10万Sドルの投資を受けている、事業活動を優位に行える知的財産を保有しているといった、それぞれ定められた条件を満たしていなければなりません。

申請時には、事業計画書などの提出が必要です。

・Entre Passの概要

対象者 シンガポールで起業する外国人
申請条件 申請者によって異なる
・起業家:政府系ベンチャーキャピタルなどから最低10万Sドルの投資を受けている、
シンガポール政府のインキュベーター対象となっているなど
・イノベータ:事業に関連した、競争力のある知的財産を保有しているなど
・投資家:大規模な成長が期待できる事業に対する投資経験があるなど
有効期限 初回および1回目の更新:1年間、2回目以降の更新:2年間

5.Tech. Pass

先端分野の企業の誘致を目的に、2021年1月から新しく導入された就労ビザです。サイバーセキュリティ、AI、eコマースなどのテクノロジー企業の大手もしくは成長企業の創業者、専門の技術者などが対象となります。

申請には、3種類の条件から2種類以上を満たしていなければなりません。有効期間は2年間で、一定の成果が出ていた場合には更新が可能になります。

・Tech. Passの概要

対象者 大手もしくは成長企業の創業者、専門の技術者など
申請条件 3つのうち2つ以上の条件を満たしている
・1年以内の直近で、固定の給与額が月額2万2,500Sドル以上
・評価資本価格または時価総額が5億米ドル以上、もしくは資金調達が3,000万米ドル以上の
テクノロジー企業で、5年以上主導的な役割を担っていた
・月間アクティブユーザーが10万人以上、もしくは年間売上1億米ドル以上の
テクノロジー製品の開発で、5年以上主導的な役割を担っていた
有効期限 2年間(更新可)

6.Overseas Networks & Expertise Pass(通称ONE Pass)

2023年1月から導入されている、グローバルに活躍するトップタレントの誘致を目的にしたビザです。ビジネス、芸術、文化、スポーツ、テクノロジー、アカデミア、科学、研究などさまざまな分野が対象です。

申請には給与月額、雇用企業などの条件を満たしていなければなりません。ただし、特定の分野で高い実績を残している著名な人材は、条件緩和が受けられる可能性があります。

配偶者も、就労承諾書(LOC)を取得すると働くことができます。

・Overseas Networks & Expertise Passの概要

対象者 グローバルなトップタレント
申請条件 ・過去1年以内の月額固定給が最低3万Sドル、
もしくはシンガポールで得る月額固定給が最低3万Sドル
・海外にいる人が申請する場合、2種類のうちどちらかの条件を満たしている
1.海外のEstablished Companyで最低1年間働いた経験
2.シンガポール内のEstablished Companyで働く予定
※Established Companyとは、時価総額もしくは評価額が5億米ドル以上、
または年間の収益が2億米ドル以上の企業のこと
有効期限 5年間(更新可)

就労ビザの「ポイント制度」と「申請方法」

就労ビザが取得可能かどうかを審査するポイント制度COMPASSと、実際の就労ビザの申請方法はどのようになっているのでしょうか。

COMPASS

COMPASSは、EP(Employment Pass)の2023年9月以降の新規申請と2024年9月以降の更新申請に適用になる制度です。「個人」と「企業」の各の合計が40ポイント以上の場合のみEPの申請が可能になります。

個人ポイントの基本審査項目は、給与額および学歴。企業ポイントの基本審査項目は、国籍の多様性およびローカル社員雇用への貢献度です。これに加えてボーナス審査項目として、個人ではシンガポールに不足している職種かどうか、企業の方は政府の戦略的経済優先事項に沿った適格プログラムに参加しているかなどをチェックします。

ビザ申請の手順(EP・S Pass)

    1. 申請書類の作成・提出

雇用主は、申請前に14日間求人広告の掲載を行ってから申請書類を作成し、オンラインで申請手続きを行います。

    1. In-Principle Approval Letter(IPA)もしくはRejection Letterの発行

申請が通った場合、IPAレターが発行されます。IPAレターの有効期間はEPが6か月、S Passが60日間で、発行後には本人がシンガポールにいなければなりません。

    1. 必要に応じて健康診断を行う

IPAレターに健康診断が必要と記載されていた場合には、医療機関で健康診断を受けます。

    1. Notification Letterの発行

健康診断が免除された場合や健康診断で問題がなかった場合には、有効期間が1か月のNotification Letterが発行されます。

    1. 指紋と写真を登録する

Notification Letterが発行されてからEPでは2週間以内、S passでは1週間以内に、オンラインでMOMの予約を取り、MOM(人材開発省)で指紋と写真を登録します。

  1. 就労ビザの発行

5営業日前後で就労先企業に就労ビザが発行され、郵送で届きます。

まとめ

シンガポールで就労するには、働く前に目的に合った就労ビザを申請・取得しておかなければなりません。本人ではなく企業が申請を行う就労ビザもあり、ビザの種類によって、申請可能な条件や有効期間なども異なります。企業がシンガポールでよい人材を獲得して確実に成果を挙げるためには、就労ビザの特徴を押さえて有効な人事を行う必要があるでしょう。

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著者情報

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