海外ビジネスで必ず直面し、乗り越えなければいけない課題が資金調達です。企業は海外進出を果たすために莫大な資金を必要とし、自社や金融機関から調達します。
しかし、莫大な資金の必要性を前にして、資金力や信用力の乏しい企業は、海外ビジネスの入り口でつまずき、海外進出自体を断念することもあります。海外ビジネスの最初の関門となる資金調達について考えてみましょう。
海外ビジネスでは多額の事業資金が必要となる
海外進出をする場合には、国内で新規事業を展開するよりもさまざまな面で費用がかさみ、多額の予算が必要となります。日本国内に支店や支社、子会社を出すよりも海外の国々は距離も遠く、現地に赴くだけでもコストがかかるためです。
また、得られる情報も限られており、コミュニケーションの問題なども含めビジネス展開に必要な情報やサポートを得るために高額な費用を使うことになるでしょう。こうした点からおのずとコスト高が予想され、予算は膨れ上がるのです。
市場調査・情報収集の費用
海外でビジネスを展開するためには、どこでどのような商品やサービスをどのように提供していくか検討することからスタートします。そのために必要なのは、選択のための情報です。ところがインターネットなどから得られるものは少ないため、専門の機関などから情報を購入したりリサーチを代行してもらったりすることになります。
また、計画が進むにつれ、現地でのリサーチや現地パートナ―探し、マーケティング戦略、現地駐在員の選定、採用活動など、業務の幅も広くなり、それぞれに資金が必要となっていきます。
先行投資のための資金調達
海外ビジネスには「ヒト」「ノウハウ」「カネ」が必要などと言いますが、「ヒト」や「ノウハウ」を得るにも「カネ」は重要な役割となり、資金は根底にあるものとしてまず必要となるでしょう。
先んじて投じた資金は、ビジネスが成功した時に回収できるものです。しかし、成功のためにはまず十分な資金準備が必要となります。海外では、戦争や革命など日本ではあまり起こりえないリスクが発生し、避けられない失敗も起こり得ます。どの企業も回収リスクや本社の経営安定も考慮した上で、無理のない、しかし十分な資金調達が課題となるでしょう。
海外ビジネスの資金調達方法の種類
海外でビジネスをスタートするための資金調達方法には、以下のようなものがあります。
親子ローン
親会社からの子会社(現地法人)への融資です。親会社の自己資金や、国内の金融機関による親会社向けの融資が原資となります。親子間での融資は返済方法について柔軟な対応ができること、日本の低金利を利用できるメリットがあります。
ただし返済は、親会社の調達金利に基づき外国送金によって行われるため、送金コストが発生します。また為替の変動リスクも親会社または子会社で負担することになるので注意してください。中小企業の海外展開や、現地法人の円滑な資金調達をサポートする制度として、日本政策金融公庫や各種金融機関で取り扱いがあります。
クロスボーダーローン
国内の金融機関から国内の親会社を介さず、子会社(海外法人)に直接融資する方法です。親会社のバランスシートがスリム化を図ることができるメリットや、親子ローンとは異なり送金手続きが必要ないため、送金コストがかかりません。
調達金利は国内での調達金利に基づきますが、基本的には現地通貨での融資になることから、為替リスクを軽減できるメリットがあります。ただし融資の実行には親会社の保証が必要です。
助成金・補助金の活用
中小企業や個人事業主を支援するため、国や地方公共団体、またはそれ以外の公的機関などが行っている制度を活用する方法です。利用条件が定められていますが、返済義務がないこと、情報提供などのサポートも受けられることなど、有利な資金調達が可能です。また補助金も助成金も、基本的に後払いであることが特徴です。
助成金と補助金の違いは、その財源や受給までの道のりです。「助成金」は主に厚生労働省が管轄しており、雇用保険料が財源です。事業者が所定の様式に従い申請し、受給要件を満たしていれば原則受け取ることができます。
対して「補助金」は、主に経済産業省や地方自治体が管轄していて、財源は税金です。予算や採択件数が決まっているものが多く、申請をしても受給できるとは限りません。申請数によって倍率が上がり、審査で落ちてしまう可能性もあります。
また補助金は一か月程度の公募期間を設けていることが多いですが、期間の短さから資料が準備不足となってしまい事業内容が伝わらず審査に通らないこともあります。補助金の活用を検討している場合には、定期的に補助金や助成金のポータルサイトをチェックするようにしてください。
スタンドバイ・クレジット制度の活用
海外の金融機関へ信用状(保証書)を発行して、直接現地の金融機関から融資を得る方法です。信用力の乏しい中小企業の海外法人や海外支店が、現地の金融機関から事業資金の借入を行うにあたり、その資金調達を支援する制度です。
現地での資金調達は、現地の流通通貨で返済に充てることができるため、為替手数料や送金のコストを軽減できるメリットがあります。また海外の金融機関にとっても、融資先の海外法人等からの返済が滞っても信用状により返済が保証されていることから、この制度を活用することで現地での資金調達が円滑に進みやすくなります。
スタンドバイ・クレジット制度は、日本政策金融公庫や地方銀行など、全国各地の金融機関で取り扱っています。ただし信用状があっても借入れ時には審査があり、審査対象となるのは日本国内の親会社です。
ベンチャーキャピタルからの出資
ベンチャーキャピタルとは、投資家や事業会社・金融機関から資金を募り、成長性の高い企業やビジネスからのハイリターンを狙った投資会社のことを指します。
未上場のベンチャー企業やスタートアップ企業に投資を行い、投資先の企業が上場して大きく成長した後に株式を売却する、もしくは事業を売却してキャピタルゲイン(保有している資産を売却することによって得られる売買差益)を得ることを目的としています。
このベンチャーキャピタルからの資金調達方法は、「融資」ではなく「出資」のため、返済の義務はありません。ただし資金が回収出来なくなるリスクを減らすために、ベンチャーキャピタルは、さまざまな形で投資先の企業や若手起業家の成長を支援します。資金提供だけではなく、投資先の企業の経営に深く関わり、経営支援やコンサルティング業務を提供する場合があります。
参考サイト:日本政策金融公庫「スタンドバイ・クレジット制度」
資金調達方法によって変わる税率
海外ビジネスを手掛ける際には、本社から海外支社・支店、もしくは子会社に資金を提供することになります。自己資金ではなく借入金や補助金などを受ける際にも、基本的に本社から海外拠点へ資金が流れます。
本社から海外子会社へ資金を入れる場合、出資や融資で税務上の効果はさまざまです。そのため、進出先やその税制の変化に合わせて対応していくことが必要です。
子会社への資金投入方法
海外に子会社を設立した場合、出資と融資の2つの方法で資金を投入できます。出資をすると、海外子会社は親会社に対して配当を支払い、融資の場合、子会社は親会社に利子を支払います。
利子は子会社の損金・親会社の益金になりますが、配当は子会社の損金・親会社の益金になりません。そのため、税率の低い国では出資を選んだ方が法人税を抑えられます。反対に、税率の高い国では融資にした方が、損金として節税につながるでしょう。
ただし、これは税法上の問題に焦点を当てた場合の計算です。実際は、租税条約などその国ごとに慎重に判断することが必要です。
まとめ
海外ビジネスには莫大な資金調達が必要となります。資金不足は計画の進捗を停滞させ、準備不足による事業不振となりかねないため、有効な資金調達方法の模索は欠かせません。調達方法にもいろいろなものがあるため、自社にとってメリットが多く、利用可能なものを厳選して検討するようにしましょう。