日本から海外進出を行う企業が増えており、今や大企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業でも海外進出は盛んですが、実態としては、業界によって進出状況に偏りがあります。

日本企業の海外進出動向

日本企業の海外進出は、2019年までは年々増加傾向にありました。外務省が行っている「海外在留邦人数調査統計」によると、海外に在住し現地で働く日本人は2019年に141万人を超え、統計を開始した昭和43年以降最多になりました。

しかしながら、2022年10月時点の同様の調査では、海外に在留する邦人総数は130万8,515人まで減ってしまっています。前年比約2.7%の減少となり、2020年から連続するマイナスは、新型コロナウイルスの感染拡大による影響です。

同じく外務省による「海外進出日系企業拠点調査」でも、2021年度の調査結果として、日系企業の総数が77,551拠点と、前年の80,373拠点から減少しています。1年で3,000弱の拠点が減っていることになりますが、その多くがアジア、とくに中国から2,000以上の減少です。このことからも、新型コロナウイルスの影響がいかに大きいものであったかがわかるでしょう。

また経済産業省が行っている「海外事業活動基本調査」では、2020年度の実績として現地法人従業者数は前年度比マイナス0.2%減少の563万人に、さらに現地法人の売上高は前年度比マイナス8.4%減少の240.9兆円と発表しています。

地域別の変化としては、北米は減少したものの、欧州、アジアの現地法人数は増加傾向にあります。ただし詳しく見ていくと、中国やタイ・フィリピンを含むASEAN10は減少し、その他のアジアが増加していることがわかります。いまだコロナ前の数値までは戻らないものの、2019年以降の推移を見ると、行動制限緩和によって海外進出を考える企業は少しずつ回復傾向にあるようです。

参考サイト:
外務省「海外在留邦人数調査統計(2019年10月現在)」
外務省「海外在留邦人数調査統計(2022年10月1日現在)」
経済産業省「海外事業活動基本調査」

海外進出の多い業界

日本人や日本企業の海外進出においては、業界ごとに拠点数(企業数)に差があります。海外進出に積極的、もしくは向いている業界とそうではない業界があるという傾向が見えてきます。

日本人や日本企業のうち、海外進出が多く見られるのは、製造業や卸売業・小売業です。さらにその後にサービス業やIT・通信業などが続きます。製造業の拠点として海外工場を考える企業が多いため、製造業界の割合は高いままで推移しています。

ただし、それ以外の業界でも勢いを高めている業界があります。それがIT業界です。エンジニア育成に積極的な国では、エンジニアの雇用がしやすく、さらに人件費を抑えることも可能となっています。そのためIT開発の分野では海外進出への期待が高まっていると考えられます。さらに、アパレルなどの消費市場としても海外の国々に魅力を感じ、進出を果たす企業が増えています。

海外進出の少ない業界

一方で、上記以外の業界での海外進出は、比較すると、数も割合も伸びは緩やかになっています。とくに第一次産業の農林水産業界は、前述の「海外進出日系企業拠点調査」によると、77,551拠点のうちの535拠点と、全体約0.7パーセントにも満たない数字です。鉱業、建設業もついで低めとなっています。

また物流業や人材業、金融保険業なども盛んではありません。ただしその一方、海外で宅配業をスタートさせる企業も出てきています。とくに経済のグローバル化と生活水準の向上によって、アジアでのサービス展開に希望を見出しているようです。

このようなこれまでとは違った流れが起こることもあるため、今後も海外進出についての傾向は変わらないとは言えません。

業界・国ごとの海外進出の魅力と優位性


海外進出の活発さに業界ごとの差が出るのは、その業界の特性によって海外進出が魅力であるかどうかに関係しています。

たとえば製造業では海外の労働力を使うことでコストダウンが可能になりました。他にも、ベトナムではITエンジニアの育成に力を入れており、IT・通信業界での海外進出のターゲットとして注目されるようになりました。また中国ではアパレル関係の消費を期待して進出する企業が増えています。アメリカでは、日本食ブームが起こったことで、関連企業の進出が増えました。

このように、海外進出のメリットの感じ方はそれぞれです。こうした企業らを分析し、具体的なメリットを知ることで、自社の海外進出のきっかけにすることができると考えられます。

業界ごとの海外進出のリスクと注意点

海外進出を考える上では、各国でそのリスクの種類も変わるため、業界ごとに進出するのに向いている国、向いていない国を考えることが必要です。前述したベトナムでは、人件費の高まりが起こっており、そのために製造業界の進出が難しくなっています。

また、これから海外進出を考える企業では、まずは近隣のエリアから検討してみる方がよいかも知れません。アメリカなどは、そこからの海外進出によって世界的シェアも視野に入れられるため注目されやすい国ですが、アジア圏なども合わせて検討してもよいでしょう。

海外進出を考えない企業も

日本から海外進出を考えるには、さまざまな乗り越えるべき壁があります。それらを1つずつクリアにしていかなければいけないため、二の足を踏んでしまう企業もあるようです。

海外進出において必要なものに、資金や人材、海外でビジネスを行うためのノウハウなどがあります。そこまで資金を掛けられない、人材を育てられないという、経済的にも人的にも現状の事業で手一杯だという企業の悩みも見えてきます。

また、製造業にはメイドインジャパンにこだわる企業もあります。もしくは、輸出で海外市場に対応できるという考え方もあります。人材や資金を投入してまで海外に拠点を置かなくても、海外市場を活用できるという考え方です。

越境ECの可能性

輸出以外の方法として、拡大しているのが「越境EC」です。越境ECとは、グローバルECとも呼ばれ、国境を越えて商品やサービスを売買することを指します。具体的には、「Amazon」のような多言語対応のECサイトや自社のECサイトなどを活用し、世界中の消費者とEC取引を行います。

越境ECのメリットは、日本から海外の大きな市場に参入が可能であることです。さらに、国内に比べて需要が高い商品であれば、より大きな利益を得ることもできるでしょう。また、国内市場に比べて競争が少ない場合があるため、市場の拡大が期待できることも越境ECのメリットとして挙げられます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オンラインでの買い物の需要が世界中で増加しました。大きなビジネスチャンスとして、越境ECはますます注目が集まっています。今後は海外進出の選択肢の一つとして、越境ECへの参入を考える企業も増えてくるでしょう。

ただし越境ECにおいては、言語や文化の違いに対応する必要があるため、販売先の国や地域に合わせたマーケティング戦略を策定しなければなりません。また、関税や輸入規制など、国際取引特有の問題も存在します。これらの問題をクリアするためには、十分な市場調査を行うこと、専門知識をもったパートナーの協力を得ることが欠かせません。

まとめ

このように、全体として海外進出は増加傾向にありますが、業界や企業によって、その判断にばらつきがあります。全体のトレンドを認識しつつ、各企業にとって海外展開のもつ意味をよく検討することで、ビジネスの拡大に一歩近づくことが出来ます。

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hawaiiwater

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