アジア通貨危機やリーマンショックなどによって市場を揺らぐと、多くの国はその影響を強く受けます。しかし、ベトナムは危機がありながらも安定した成長率を維持していきました。ベトナム経済の強さの秘密をまとめました。

ベトナムの経済成長率の推移

ASEAN諸国の経済推移をみると、1997年のアジア通貨危機や2008年のリーマンショックなど景気後退局面があることがわかります。しかし、ベトナムはタイなどが失速する中でも高い水準で成長率が推移した国です。ベトナムは中国とともに高い成長率を維持してマイナス成長に陥ることはありませんでした。

この背景にあるのはクローズドな金融政策です。ベトナムの経済戦略は中国と類似点が多くあります。まずインフラを整備して海外からの直接投資を呼び込み輸出を拡大、それを追い風に工業化を進めていきます。また閉鎖的な金融政策も中国との共通点です。金融市場を対外開放せず、短期資本移動や為替取引を厳しく規制した結果、通貨危機などの海外金融市場の激変にも耐えることができました。

ベトナム経済は1990年代半ばから10%近い成長率をたたき出し、アジア通貨危機がありながらも2000年代に7%以上の成長率を示しました。2008年のリーマンショックや政府による金融引き締め政策の結果として、景気が鈍化した局面もあったものの、2018年の実質GDP成長率が7.1%と過去10年間でもっとも高い成長率を記録しています。

景気をけん引してきたFDIの存在

ベトナムが高い成長を見せるようになったきっかけは市場経済化という政策の転換が挙げられます。またその成長をけん引してきたのが海外からの直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)です。2018年のFDIは前年比9.1%増で過去最高となりました。

ベトナムはFDI 誘致のため、ベトナム政府は多額の ODA を使ってインフラ整備を進めてきました。日本もベトナムのインフラ整備のために多額の二国間援助をしてきています。しかし、ベトナム政府のこのような戦略は膨大な対外借入額の累積につながります。国際機関からも過剰債務が積み重なることで、正常な財政活動がおこなえなくなる危険性が指摘されるようになりました。

ベトナム政府もこのリスクを認識して公的債務残高を GDPの65%以下にするというシーリングを設けました。ところが2016年にはその上限に近づいたため、ODAによるインフラ建設工事の進捗や代金支払いが滞るというトラブルが勃発しています。

成長をけん引するためのライフラインであるFDIを維持するためには、インフラの整備が欠かせません。しかし、支払いが難しくなればベトナム政府の世界的な信認も悪化してしまいます。

「対ベトナム投資の国別累積動向」(2019年3月20日時点)をみると、最も認可額が多いのが韓国、それに日本、シンガポール、台湾と続きます。ベトナムは税制優遇や安価な労働力などの面で他国よりも優位な環境にあり、今後もFDIは増加基調が続くでしょう。財政収支の慢性的な赤字やインフラ整備のために使ったODAによる公的債務残高は今後も残された課題です。

日本からベトナムへの投資動向

日本からベトナムへの投資動向
日本からベトナムへのFDIは認可額でみると、2008年が最大で700億ドルという規模にまで膨らみました。これは2007年にベトナムがWTO に加盟したことで、投資環境が大幅に改善されるとの期待感から、投資先としてベトナムの魅力が注目されるようになったことが要因です。2008年は、製油所、製鉄所、港湾といった大型投資案件が増加しました。そのため、認可件数自体は2007年と変わらないものの、認可額が大きくなっています。

近年のFDI認可額は2010年ごろと同じ150億ドル前後の水準で推移しています。しかし、その一方でFDIの認可件数は2000件を超え、2010年の倍以上に増加しました。ここからわかるのは大型のFDI案件ではなく、小規模のFDI案件が増加しているということです。つまり中小企業のベトナム進出が目立つようになっています。

たとえば近年、小売や飲食店などの小規模な案件、また大型組立工場に部品を提供する企業などの案件が増えています。従来のベトナム進出は輸出加工型企業が中心でしたが、食品や消費財などの製造業など内需を狙った企業も進出してきています。

まとめ

ベトナムは投資先としてのポテンシャルが高く、労働集約型産業からの需要も高い国です。ただし、インフラの未整備や制度については課題も多いでしょう。もともと労働集約型産業であるアパレルや靴などの外資企業が多く参入していましたが、2000年代後半になるとサムスンやLGをはじめとする韓国企業の進出により、エレクトロニクス関連の製品の輸出が増大しています。

高度な産業を育成するためにはベトナムでも今後はワーカークラスの人材だけでなく、マネージャークラスの人材の育成などを通じてより高付加価値の創出が目標となります。成長率を武器にして外資を算入するだけでなく、外資企業から技術移転することで地場産業の育成を目指すなど生産性の改善も求められます。生産労働人口の減少が問題視される日本企業にとってもベトナムへの投資は魅力的といえるでしょう。

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