景気の冷え込みや経済動向を探るうえで雇用は大切な経済指標の1つです。中国は高い成長率を武器としていましたが、近年成長率が鈍化していてその対応も急がれています。中国における雇用環境や抱えている課題についてまとめました。

経済減速と雇用情勢

中国は、1990年代から世界の工場として海外製品の製造を多く担ってきました。中国が世界の工場になれた理由の1つが安い労働力です。とくに経済特区がある中国沿岸部は働き口も多く、内陸の農村部からも多くの人が仕事を求めて都市部に人が移り住みました。しかし、中国の雇用情勢の変化によってその構図も変化しています。

中国国家統計局の発表では雇用情勢をあらわす指標として都市部新規就業を発表しています。2018年の発表は1,361万人と目標を大きく超えました。市場関係者もこのニュースは喜びを持って受け止めています。

一方で全体の就業者数は7億7,586万人で減少しています。都市部新規就業が増えているのに、全体の就業者数が減少していることには理由があります。

1つは、都市部新規就業は延べ人数であることです。一度就職して1年以内に退職した場合は、都市部新規就業には数えられますが、就業者にはカウントされないと言われています。また都市部での就業者が増えてはいるものの、農村でそれ以上に就業者が減って、中国全体としは就業者が減少しています。

都市部調査失業率はこの数年5%前後で推移して、求人数も大きな変化はありません。しかしその一方で求職者数が大幅に減ることで労働者が足りない、労働供給不足が指摘されるようになりました。さらに一方で今後大規模な失業が起きるという予測もあります。

中国が恐れる大失業とは

中国政府は雇用問題の特別チームを設置して1,000億元(約1兆6千億円)を原資に、3年間で計5,000万人に職業訓練を受けさせることを明かしました。

中国は人口が多く労働力は足りている一方で高い技術や知識を持つ人が少なく、人がいても仕事がない状態が続いています。この構造的な雇用問題を解決するために職業訓練で行員の技術や知識を底上げするのがこの制度の狙いです。

また、雇用が悪化しているのは工員だけにとどまりません。大学を出たホワイトカラーの雇用も悪化してきています。中国の求人サイト猟聘網によると2019年3月の求人倍率は0.74でした。つまり求職者が求人数を大きく上回ってしまったのです。これは輸出企業が集まる都市での雇用情勢が悪化したことが原因です。

雇用情勢の悪化の原因としてまず考えられるのが、景気悪化でしょう。業績が振るわず企業が新規採用を見送れば求人数は減少します。業績が振るわずに従業員を解雇すれば当然就業者も減ってしまいます。

国務院発展研究センターの調査によると、輸出企業が集まる広東省や浙江省などの7都市で500社を調べた結果、その5分の1に当たる企業が雇用は10%以上減ると回答しました。特に輸出企業は経営悪化に備えてリストラを進める可能性が出ています。今後の社会の動揺や失業率の上昇を防ぐためにも李克剛首相は雇用対策を急いでいます。

長期的には労働供給不足も

長期的には労働供給不足も
中国は目先の貿易問題も気になるところですが、長期的な目線では生産年齢人口の減少も注視されています。求人数が横ばいに推移しているのに対して求職者数が減っていることが続けば、求人倍率にも影響を与えます。

世界的に生産年齢人口は15歳から64歳で見ることが多いでしょう。しかし、中国では男性の法定退職年齢が60歳であることから、15~59歳を生産年齢人口としています。中国国家統計局のデータでは2012年以降から生産年齢人口が減少し始めました。

2000年代の初頭は中国生産年齢人口の伸び率は就業者数の伸び率を大きく上回り、人が余っている時代。しかし、2010年代から減少に転じ、今後も流れは止まらないと推測されます。そこで中国共産党と政府は定年延長の方針も打ち出し、高齢者を人的資源とする方針を明かしました。高齢者の労働力、就業能力を上げることで就業者数を維持する狙いです。

生産年齢人口が少ない状態で政府が景気対策をしても賃金の上昇やインフレだけに留まるという指摘もあり、中国では生産年齢人口の減少に応じた産業構造の変化が求められています。

まとめ

中国の雇用情勢は農村から都市へ、農業などの第一次産業から製造業などの第二次産業、そしてサービス業などの第三次産業へとこれまで順調にシフトしてきました。生産年齢人口の減少が懸念される中国において、これから望まれるのは企業の生産性の向上や、現役世代の経済的な格差がなくなることでしょう。

中国のGDPに占めるサービス業の割合は50%を超えています。これからの中国の産業を支える第三次産業は世界貿易でも強い存在感を発揮すると考えられるでしょう。

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