近年、海外進出して世界に販路を広げる企業が増加しています。海外法人を設立する企業も増加傾向です。しかし、その場合の取引における売上の消費税はどのように扱うのでしょうか。海外取引の消費税についてまとめました。

日本での税制の基本的な仕組み

消費税とはモノやサービスを購入することに対して課せられる税金のことを言います。そのため、事業主がモノやサービスを販売して消費者が購入する場合、納税する義務があるのは消費者です。

ただし、この消費税は国内で事業主が行ったものに対して課せられます。つまり、海外に対して物やサービスを展開している場合、消費するのは海外になるため日本国内の消費税の対象にはなりません

消費税が課税されるかどうかは、消費が国内かどうかによって判断されます。モノの輸出の場合は国内のものか判断が簡単です。しかし、サービス等の役務提供の場合はその判断が難しいケースもあります。

消費税の課税対象について

消費税には、その取引が課税対象かどうかを判断するための要件が定められています。すべての要件に該当することで課税対象となり、1つでも該当しない場合には、不課税取引となり、課税対象とはなりません。課税対象となる要件は以下のとおりです。

  • 日本国内の取引であること
  • 事業者が事業として行う取引であること
  • 対価を得て行う取引であること
  • 資産の譲渡等(資産の譲渡・貸付け又はサービスの提供)であること

「輸入取引」は原則として課税対象

輸入取引についても消費税が課税されます。消費税法でいう輸入取引とは、保税地域から引き取られる貨物のこと、いわゆる輸入品に対しては原則消費税がかかります。輸入取引にかかる消費税は、原則として引き取り時までに品名や数量を記入した輸入(納税)申告書を管轄の税関長へ提出し、関税とともに消費税を納付しなければなりません。

ただし、納付期限の延長を受けたい旨の申請書を税関長へ提出した場合、担保を提供することで、担保の額の範囲内の消費税額について、最長3か月の納付期限の延長が認められます。担保の種類は、国債及び地方債、社債その他有価証券、土地や建物等などです。

課税標準

輸入取引にかかる消費税課税標準額は、「関税課税価格いわゆるCIF価格(運賃、保険料込み価格)に、消費税以外の関税及び個別消費税の額に相当する金額を加算した合計額」です。個人消費税とは、ある特定の物やサービスにかかる税であり、代表的な消費税には、たばこ税や酒税・ガソリン税などが含まれます。

・消費税課税標準額=関税課税価格(CIF価格)+関税+個人消費税

消費税率

消費税の標準税率は10%ですが、厳密には内国消費税(7.8%)と地方消費税(2.2%)に分けられます。また2019年10月より実施された、「外食・酒類を除く飲食料品が対象」の軽減税率の場合は、国内取引と同様に8%となります。内訳は、内国消費税(6.24%)と地方消費税(1.76%)です。

  • 内国消費税=消費税課税標準額(1,000円未満切捨)×内国消費税率(7.8%または6.24%)
  • 地方消費税=内国消費税(100円未満切捨)×22/78

内国消費税と地方消費税の合計金額が、納める輸入消費税となります

課税金額が1万円以下の場合の免税適用

課税価格の合計額が1万円以下の物品の輸入については、一部を除き、消費税と関税が免税となります。ただし、消費税以外のたばこ税や酒税などの内国消費税が課せられる場合には、それらの税は免税の対象にはなりません。

除外される品目は、革製のバッグ、編み物製衣類、スキー靴、などが定められています。なお、免除しない物品に定められたものであっても、課税金額が1万円以下かつ個人的な使用に供されると認められる贈与品に関しては免税となる場合があります。

参考サイト:国税庁「輸入取引」

「輸出取引」は消費税が免除される

日本国内で販売するのと、海外に向けて販売するのでは経済的な実態には大きな違いはありません。しかし、消費税という点でいえば、国内取引と輸出取引には大きな違いがあります。

消費税は国内で事業主がおこなった取引が課税対象です。しかし、輸出取引の場合は実際に消費されるのは海外です。国内で消費されないものに対しては課税とならないので、消費税の納税は免除となるのです。消費税法では免税取引となる取引について定められています。一般的な輸出取引のほか、通信や郵便、また非居住者や海外法人に対する役務の提供も免税取引です。

「免税取引」とならないもの

非居住者や海外法人に対する役務の提供は前述のように免税取引となります。一方で免税されない、つまり課税取引となるものもあります。

1.国内に支店を有する「非居住者」や「外国法人」への役務提供

非居住者や海外法人が、日本国内に支店などがある場合は輸出免税の適用はありません。国内に支店がある場合は、海外向けのサービスであっても国内支店を通じておこなわれているという考え方になります。(消費税法基本通達第2節 輸出免税等の範囲7-2-17)

ただし、日本国内に支店などがあっても要件を満たすことで輸出免税となります。まず、国外本店などに直接役務の提供をおこなっていて、国内支店などが直接的に関わっていない場合、また、国内支店等の業務が、今回の役務提供に関連しているものではない場合などは輸出免税の対象となります。

参考サイト:国税庁 (国内に支店等を有する非居住者に対する役務の提供)

2.消費税基本通達での例示

役務が日本国内で完結するものも免税にはなりません。日本国内にある資産の運送や保管のほか、日本国内の飲食や宿泊とそれ等に準じるものは課税対象です。(消費税法基本通達第2節 輸出免税等の範囲7-2-16)

例えば、日本国内ホテルでの宿泊や美容院やサロン、医療費などは課税となります。これは国内で消費されていると判断されるからです。

参考サイト:国税庁 「非居住者に対する役務の提供で課税されるもの」

国内取引と国外取引の両方を行う場合

国内と国外両方での役務提供

役務提供が「国内」で行われたかどうかが基準

サービスの中には国内と国外両方の土地で役務提供を行うケースも想定されます。そのような場合は役務提供を行う者の事務所所在地で判定します。つまり、役務提供を行った事務所所在地が日本なら課税取引となります

また、役務提供場所が具体的に特定出来ないようなケースでは契約書で記載された役務提供場所によって判断することとなります。具体的には日本本社から海外工場に技術指導をおこなった場合は、役務提供が海外なので免税となります。

一方で外国法人が日本工場で技術指導をすると課税です。また、人材派遣会社がツアーコンダクターを派遣した場合は、日本国内と海外両方で仕事が発生します。このケースでは現地での役務提供のみの場合は課税となりませんが、出国や帰国まで行うサービスは原則課税取引です。

資産の譲渡または貸付け

国内取引か海外取引かの判定(内外判定)は、前述の「役務提供の場合」以外に「資産の譲渡または貸付けの場合」があります。こちらは一定の例外はあるものの、譲渡または貸付が行われる際に、その資産がどこに所在していたかで国内取引かどうかを判断します。

資産の所在地が国内であれば国内取引、海外であれば海外取引とみなされます。海外取引については不課税となります。

輸出免税を受けるために

輸出免税を受けるためには、輸出取引であることを証明する資料が必要です。例えば輸出許可証や税関の輸出証明などが該当します。また輸出の事実を記載した帳簿や郵便物受領証なども必要になります。

また、輸出業をメインとして行うのであれば、消費税還付を受けられる課税事業者となったほうが有利な場合もあります。課税事業者になるためには税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出しなければいけません。輸出事業や海外向けサービスを始める予定がある場合は、あらかじめ用意しておくことをおすすめします。

課税事業者とは

消費税の納税義務がある事業者のことを「課税事業者」といいます。反対に、消費税の納税義務を免除されている事業者のことを「免税事業者」といいます。

消費税の確定申告によって消費税が還付されるのは、課税事業者のみです。免税事業者であっても、特定期間の売上と給与支払額の要件を満たすと課税事業者となり、確定申告と納税の義務が生じます。なお免税事業者であっても、取引先へ消費税を請求することについては容認されており、受け取った消費税は事業者の利益となります。

参考サイト:国税庁「国外取引」
参考再サイト:国税庁「輸出取引の免税」

まとめ

消費税は取引の実態のほか、契約書の内容、所属事務所などの違いで課税非課税が違います。消費税の支払いをはっきりさせるためにも契約書などで役務提供場所を明確にしておくことが大切です。このような海外法人に関係するノウハウは経験がものを言います。海外進出や海外向けサービスを始めるときは、実績も確認してパートナーを選ぶことをおすすめします。

著者情報

hawaiiwater

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